「愛してる」
何度も聞きなれた心のない感情。
毎日身体の欲望を重ねるだけの日々。
愛してるなんて、言われたくもない。
「私も愛してるわ」
それでも心のない感情を返すのは唯のエゴだろうか。
彼が寝たのを確認しベランダに出て煙草を一服する。
「愛してる、ねぇ」
口に出してみても何も生まれやしない。
「バカな男ね。私は、、何なのかしら」
気がついたら頬に雫が伝っていて煙草からは火が消えていた。
「私は、欲望を吐き出すための道具なのかしら」
「誰がそんなこと言ったの」
後ろから声が聞こえては何かに包まれる感覚に陥った。
「っ。起きていたの」
「今起きたのさ」
そう言って抱きしめてくる彼は微かに震えていた。
「ほんとにバカな男ね、こんな私を選ぶなんて」
「君もバカな女さ。1人で溜め込むなんて」
どちらともなくキスを交わし部屋の中に向かう。
そして今度は心のある感情で身体の欲望を重ねた。
「愛してる」
「私もよ、愛してるわ」
そう呟いてそっと手を重ねた。
ぎゅっと握りしめて夜が明けるのを待っている。
ベランダには火の消えた煙草と缶コーヒーが2人を祝福していた。
「愛してるわ」
お題「欲望」
3/1/2023, 6:34:54 PM