300字小説
贄の身代わり
「貴女様と私はそっくりですもの。私が身代わりになりますわ」
遠い昔に退治されたという山の魔物の生贄の矢が村長の家の屋根に刺さった。村長の娘は私一人。それに姉やが身代わりを申し出、山へと上がっていった。
今でも、あの出来事はよく覚えている。姉やはそのまま行方不明となり、若い男が一人、村から消えた。
あのとき、私には婚礼の話があり、姉やは私に付いて、今の嫁ぎ先の下女になる予定だった。
「……もしかしたら……」
あの矢は後で調べたところ、飾りを付けて染めただけの普通の矢だったらしい。
芝居小屋の帰り。のんびり茶店でお茶を飲む。
通りの向こうを私によく似た女性が、彼女によく似た子供を連れて、楽しげに歩いていった。
お題「あなたとわたし」
11/7/2023, 11:17:19 AM