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昨日「さようなら」と言った君が、
翌日には白い花に埋まっていた。

君の死はあまりにも突然で、僕自身が受け入れられない内に、君は小さな棺桶に収まっていた。眠るように目を閉じる君を見て、僕はようやく君の死を受け入れたのだ。
「可哀想に」「いい子だった」「優しくて」「彼女には将来があった」「どうしてこんなことに」
誰に伝えるでもない嘆きや慟哭が、葬式の会場に充満していた。毒ガスのようだ。僕は吐き気をこらえて、すぐに会場の外へ出た。

君は白が嫌いだった。
どうせ汚れるのにと、白いハンカチを踏みつけた。
君はいい子ではなかった。
腕についた注射の痕を、包帯で誤魔化していた。
君は優しくなかった。
落とし物であろう人形を、ゴミ箱に捨てた。
君には将来がなかった。
自分が死ぬ時の話を、毎日のようにしていた。
本当の君と、君が作ったであろう君はあまりにもかけ離れていて、それでも君はそれを僕以外の人間に明かすこと無く死んでいった。
そうして、君の本当の姿を知っている人間が、この世にただ一人になったという事実だけが残った。

君が死んだのが事故なのか、故意的なものなのか、あの世で聞かなければわからない。
どうして僕なのか、紙にでも残してから逝ってくれればよかったのに。

葬式の次の日、僕は君の机に黒い百合の花を置いた。
恐らく先生に気づかれて、散々叱られるだろうが。
これは僕だけが贈れる冥土土産だ。
僕だけが知っている、
ただひとりの君へ

1/20/2025, 8:19:55 AM