君が紡ぐ歌
二十時三十分。
夏祭りの最期を彩る一輪の大きな花火が打ち上がり、胸を叩く音を響かせて夜の空に散って消えた。
祭りの終わりを告げるアナウンスが町に流れ、それを合図に人の波も少なくなって行く。お囃子も鳴り止み、屋台もほとんどが既に店じまいを終えていた。
「……なんじゃ。 まだ夜もふけておらぬというのに、もう終わりか」
町から少し離れた山の上にある、誰もいないとある古びた神社の境内。
本堂の賽銭箱前の階段の上にちょこんと座る、狐耳の生えた巫女装束の少女が頬を膨らませ、足をぶらつかせながら一人ごちる。
つまらぬのう、とため息を一つついて、奇妙な出で立ちの少女はぴょん、と階段から下り、眼下に広がる夜の明かりを見下ろした。
――年々、祭りの規模は小さくなりつつある。
高齢化による人手不足。予算の削減。観光客の減少……。
挙げれば切りもないが。とにかく、祭りはいつ無くなってもおかしくない処まで来ていた。
「300年と少し前は、町ゆく皆が皆、この神社に来てくれて……」
――夜明けまで酒盛りを楽しんだものだったのじゃが、のう……。
懐かしむように目を細めて、寂しそうに少女は呟いた。
祭りがなくなれば信仰は途絶え、神社もいずれ朽ち果て、ここの神様である少女も消える。それが運命なら、受け入れるしかない。時代の流れとは、かくもそういうものだ。
ざあ、と木々が風に揺れ、葉が舞い落ちていく。
少女は――神様は、一つ息を吸うと、風に乗せて囁くような声で歌った。
――忘れぬように。忘れぬように。
いつか。縁、途切れ。
いつも。愛、いと儚くも。
忘れぬように。忘れぬように。
生まれたこと。愛されたこと。
神楽囃子、宵に溶けて。
夢現、夜明け忘れども。
忘れぬように。忘れぬように。
あなたのことを。私のことを。
どうか。この在りし今日の日は。
忘れがたくあれと願う――……。
少女の紡ぐ歌が止まると、ぴたりと風も止んだ。いつしか、空は白みはじめていた。
一筋の涙が敷石に落ちると、神社にはもう誰の姿も無くなっていた。
10/19/2025, 4:28:23 PM