夏が来る少し前の、夜が明けるのが少しずつ早くなる季節が苦手だった。ずっと暗ければ、見ないふりができるのに、少しずつ明るんでいく空に急かされているような気分になる。今日も変わらず、ほんの少し開いたカーテンの隙間から白い光が漏れ始める。後悔でもない、虚しさでもない、焦っているわけでもない、ただ朝を待つだけなのに、こんなに苦しい。何度目かの寝返りを打つ、衣擦れの音がやけにうるさい。ほとんど埋まっていた顔をさらに布団の中に埋めて、光を全部遮断する「寝れないの」耳元で低い声が聞こえる。声の主に返事をすることもなく、暗闇に身を潜める「起きてんでしょ」少し不機嫌そうな声は諦めたようにその場を後にする。遠ざかる足音にホッとして、息を吐く「やっぱり起きてんじゃん」ぶわ、と広がるのは真っ白な世界と少し肌寒さを覚える外の空気「目、ギンギンじゃん」「うるさい」ようやく出た声は少し掠れている「呼べって言ってるでしょ」「雷蔵も寝てないじゃん」不貞腐れたような声は彼の顔を歪めるには十分で、捲りあげた布団にするりと入り込む彼を止める術はない「あ、ちょっと」「俺が隣にいるとよく寝れる、って言ってたの、お前じゃん」何も嘘はない、でも失言だったと今になって思う。ただ隣にいるだけなのに、侵食するように睡魔がやってくる。じわじわと色を変えていく「雷蔵」名前を呼んでも返事はない。夜勤明けの彼はすでに限界だったのか、小さな寝息が聞こえ始めた「あんたの方が寝るの早いってどういうことよ」呟きながらあくびを噛み締める、寺島印の安眠枕の効果たるや、伸ばした腕をゆっくりと彼に絡め目を閉じる「おやすみ」次起きたら、もう離したくないって伝えよう。
無色の世界
4/18/2024, 3:04:16 PM