白糸馨月

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お題『君の声がする』

 トイレでお弁当を食べていたら隣からすすり泣く声がした。
 さすがにギョッとしたが、今トイレから出るわけにはいかない。外に出た瞬間、クラスを牛耳るクソ女に鉢合わせする可能性があるからだ。
 しばらく気にしないようにしていた。だが、すすり泣きがいっこうにやまない。
 私はおそるおそる泣き声が聞こえる方の壁を叩いた。泣き声が一瞬やむ。私は久しぶりに学校で話す練習をするために大きく息を吸い、大量の息を吐き出した。よし。
「なんで泣いてるの?」
 久しぶりに発した声はひどくたどたどしく、自分で自分が嫌になった。だが、隣の部屋の主は私のそんな喋りを聞いても嗤うことはなかった。
「もう、もう耐えられないの。クラスでいじめにあっていて……」
「うん、分かる」
「もしかして貴方も?」
「うん」
 それから二人でクラスの地獄具合を話し合った。おどろくほど彼女の境遇と私の境遇は似ていて、いつの間にかチャイムが鳴った。地獄へ連れ戻されるチャイムだ。
「じゃ、私そろそろ戻るね」
 そう言って個室から出る。私が話していたはずの隣の部屋には誰もいなかった。
 昔聞いたことがある。この学校には何年か前にいじめを苦にして自殺した女子生徒がいたんだって。それがもし彼女なら成仏出来てないってことなんだろう。
「また来るね」
 そう言って、かつて彼女が味わった苦しみに似たものがうごめく場所へ向けて私は足を踏み出した。

2/16/2025, 3:21:13 AM