ルクリアの束

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君と歩いた道

 ノブは組のなかでも有名な武闘派ヤクザだ。
 彼は僕の幼馴染で、唯一無二の親友である。ガキのころは泣き虫でいじめられがちだった僕のことをいつも庇ってくれた。それはまあ、僕が組の跡取り息子だったからかもしれないけれど。

 中学を卒業してすぐ、ノブは正式に極道の世界に入った。一方の僕は、暴力は苦手でも勉強だけはできたものだから、東京の大学に進学して法学部を出たあと、組の帳簿や契約関係を取り仕切っていた。
 けれども、この道ではそれだけでは通用しないこともある。今日、僕は偶然裏切り者を見つけてしまって、成り行きで粛清を任されることになった。だが、チャカを構えた手が震えて仕方がなくて、何度も握り直すことしかできなかった。
「相変わらず情けねえなぁ。貸せよ坊ちゃん」
 その有り様を横で見ていたノブが、僕の手からするりとチャカを奪い取る。そして、一切の躊躇なく引き金をひいた。弾丸は椅子に縛り付けられた裏切り者の脳天を貫いた。
「……ありがとう、いつもごめん」
「いいんだよ。お前は頭使う仕事だけしとけ」
 こんなふうに、僕はノブに助けてもらいながら非道の道を歩いてきた。



「びっくりした……若頭ってあんな人だったんすね」
「なにお前、初めて見たの?」
「いや、だって、普段は堅気みてぇにおっとりしてんのに、殺しのときはまるで別人」
「ああ。忍さんは、一人でインテリヤクザと武闘派の二役をこなせる若頭なんだよ」

6/8/2025, 3:00:34 PM