題名『都会夜空』
ある日、街から電気が消えた。
突然の事だった。
何か災害が有った訳でもなく、急に、日本の電気が使えなくなった。
一人暮らしのカップ麺倉庫の中、懐中電灯を付けて不便だと呟いた。
都会なこの街は、いつもよりも暗くて何だかお化け屋敷みたいで。蒸し蒸しとした熱が、汗を垂らす。
電気が使えないから、エアコンも付けられず仕方無く携帯扇風機でどうにかやり過ごしていた。
テレビも付けられないし、携帯の回線も繋がらない。
情報も何も無い儘、今日の夜を過ごすのか。
俺はカレー味のカップ麺に御湯を注いで不安になった。
幸い、水とガスは使えるから食に困る気配は無さそう。
今では、あの目を刺して、鬱陶しくて、邪魔な街の灯りが恋しくなる。
いつも、隣街から帰る俺をじッ⋯と見つめていてくれた。母みたいな街の灯り。
三分待つ間、ベランダに出て見た。
隣の部屋から肉じゃがの匂いが風に乗せられて匂う。
暖かくて、少し温い風。
目の前は、満天の星空と真ん丸いお月様。
街の灯りが、満天の星になった。
『恋しいなぁ...、』
明るい月にそう呟いた。
煙草の煙は、月の目の前を通り、汚す。
何だかんだ、一番良いのは街の灯り。
初めて、この街に来た時は希望に満ちていた街の街頭と、散らばる店や家の明かり。
都会の星空だった。
『煙草が今日は美味く無い。辞めよう。』
そう呟いて、煙草の火を消した。
また、一つの星が消えた。
2023.7.8 【街の明かり】
7/8/2023, 5:49:20 PM