【小説 遠くの空へ】
休日というありがたい休みの日。
こういう何も考えなくていいような穏やかな日は、公園のベンチにでも散歩をしにいくに限る。
ああでも、公園の木陰に寝そべって木漏れ日を浴びながら微睡むのもいいかもしれないな。
そんなことを前日に考えていたはずの僕は、そのあありがたい当日に、何故か全力ダッシュをして街を駆けていた。
「あんのクッッソ野郎!!!」
僕の休日をめちゃくちゃにしやがって!
という怒りを込めながら一歩一歩足を前に出す。
制限時間はあと30分。
春の心地よい暖かさも、今の僕には暑くて鬱陶しい。
視界に入る淡い桃色の花を見て優雅にお茶でも飲みたかったのに。
空港まで全力で走ることになるなんて誰が予想できるか。
汗で張り付く髪をかきあげて、もつれる足を必死に動かす。走りすぎて喉は痛いし、じんわりと血の味もしたが、なりふり構っていられる時間はなかった。
数分しか経っていないが、いつもより猛スピードで駆けたせいで何時間も走っていたような気分になる。
やっとの思いで空港に着いた時、僕のポケットで沈黙を保っていたスマホが音を鳴らした。
「…。」
なんとなく。嫌な予感がした。
空港の入り口、ど真ん中。飛行機乗り場までもう少し。
恐る恐る取り出したスマートフォンの液晶画面は暗いまま、メッセージはまだ見えない。
冷たい画面に指先が触れた。
その瞬間、僕は空港の外に走り出した。
駐車場を勢いよく横切り、建物から視界が開けた場所に到達すると。
今飛び立ったばかりのような飛行機の後ろ姿が見えた。
ビキッと自分の手の中から聞こえてきた何かにヒビが入る音。僕は諦めからの思いため息をつくと、勢いよく息を吸った。
「留学行くなら先に言えやあああああああ!!!!」
遠くに見える飛行機に、それよりももっと向こう側に、精一杯届くように叫ぶ。
覚えてろよという思いを込めて。
割れた液晶画面の中には、一つのメッセージが表示されていた。
『悪い。飛行機一本前だった。』
4/12/2024, 4:56:10 PM