ほろ

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2034年、2月15日。
私はビルの間を駆けていた。ビル風が正面から吹き付けてくる。肩越しに後ろを見れば、黒装束の人間が私の後を追ってきている。思わず、手に持っていた手紙を握りしめた。

数年前、タイムマシーンの一号機が開発された。しかし、それと同時に開発に関わった者が失踪する事件が相次いだ。反タイムマシーン派の人間による、開発者達への粛清だ。
それに気付いた開発側の人間は、私も含めて過去に行くことにした。過去に戻り、過去の自分に注意喚起をする。反タイムマシーン派の人間への対抗手段を生み出すために。

「あと、ちょっと、なのにっ」
タイムマシーンが保管されているビルまでは、ほんの数メートル。そこに辿りつけば、あとはエレベーターで一気に保管庫へ降りるだけ。だけど、後ろの足音も迫ってきている。
急がないと。
「よしっ」
ビルに辿りつき、エレベーターのボタンを連打する。たまたまこの階に止まっていたのか、扉はすぐに開いた。乗り込んで、閉めるボタンを押す。
「早く早く早くっ……!」
扉が閉まりきる数センチ。追ってきていた黒装束と目が合った。伸ばされていた手が、扉に触れる直前で見えなくなる。エレベーターは下降を始めた。
「よかっ、た、の……かな?」
安心してその場に座り込む。
数分後、エレベーターが止まり扉が開いた。私はすぐに降りてタイムマシーンへ走る。
あとはこれに乗れば、無事に……!

「ざんねんでした」

目の前が歪む。上手く足に力が入らない。視線を下にやれば、胸にポッカリ穴が開いていた。
「ど、して……」
どうして、反タイムマシーン派の人間がここに?
いや、今はそれよりも、最後の力でできることを。せめて、手紙だけでも、タイムマシーンに乗せて……
「おねが、い…………これだけ、でも、とどいて」
床に倒れる。赤が広がる。私を追ってきていた人間の舌打ちが、最後に聞こえた。

3/2/2024, 1:58:24 PM