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落ちていく

フワフワと 痺れる様な
浮遊感が 押し寄せる。

ゾクゾクする 快感が
背筋を這う

「先輩!」
気が付けば 意識が遠のいていた。
呼ばれて浮遊する。

目を開けると 満面の笑顔を
俺に向ける顔があった。

さらさらと 歩くたびに揺れる髪が
太陽に反射して 輝いている。

長い睫毛に 光を溜めて笑う顔に
思わず手を伸ばしそうになるが
寸前で 堪える。

「うるさい!」
俺は、そっぽを向いて答える。
「お仕事の 資料持って来たよ!」
俺の 顰めた顔を気に留めず 其奴は
「はい!」と 俺に資料を渡す。

俺は、横目で 一瞥し片手を上げて
資料を受け取る。


20××年

殺戮兵器 
2FG
その個体は、少女の様な姿で
帝国軍の兵士を薙ぎ払い 屠った。
その少女が通った 戦場は、血の跡が、
点々と続き屍の山が積み上げられたという



そんな混沌とした時代を跨ぎ
落ち付いた現在

俺は、未だにあの時の感覚が忘れられないでいる。



次の資料を纏めホチキスで、黙々と
留めだした 少女を見る。

あの時 対峙した少女は、そんな悲惨な
事態を 自分が創り出した事など
覚えては、いないだろう...

まるで 人形のように 無表情に
淡々と敵に向かって行く姿
容赦のない斬撃
慈悲すら微塵も無く人の体を
真っ二つに切り裂く刀


あの ひりつく様な 切迫詰まった
思い出すだけでゾクゾクする
命のやり取りを
俺は、もう一度体験したいと
夢見ている。


今 隣に居る少女に かつての様に刃を
向ければ あの時の 感覚を
呼び覚ます事が出来るだろう....



けど 同時に...

「先輩 お仕事終わったよ!
休憩しよう!私 お茶入れてくるね!!」

この フワフワした
陽だまりみたいな感覚を
永遠に失う事になる。

この太陽みたいな笑顔に 一生会えなくなるのだ。

それを思うと 夢見ているのに
踏み出せない

あのゾクゾクした快感をまた
味わいたいのに壊せない


相反する気持ちと 俺は今日も
闘って 抑えているのだ。



そう、初めて会った
あの時から....


俺は こいつに落ちていく。

11/24/2023, 3:53:56 AM