神様だけが知っている
神と呼ばれるその人は今日も、いってらっしゃい、とおかえり、を繰り返す。
帰ってきた魂に、体験してきた人生を聞いて。時に喜んだり、時に悲しげに泣いたりしていた。
魂の声は神様にしかわからないから、私たち天使はただ魂を導き、連れていくだけ。
だから、その魂がどんな人生を歩んできて、次はどうなりたいのか、神様だけが知っていた。
かなり昔に、魂になって帰ってきた私は、神様にこう言った。
「……もう、新しく何かになりたくないです」
幸せとは程遠いような人生だったけれど、覚えておくにふさわしいと感じられた一生だったから。せめて、もう少しだけ、このことを覚えていたい。
新しく変わってしまえば、その生が終わるまで思い出せはしないだろうから。
そう思って、そのことを伝えれば、神様は優しく微笑んで、ここにいることを提案してくれた。
純粋な天使のように、魂は真っ白ではないし、所々欠けてしまっているけれど、今日もこうして魂たちを導き、その声が聞こえないかと耳を傾けた。
7/4/2023, 2:22:13 PM