『なんでこんなこといつまでも覚えてるんだろうな、って自分でも呆れるくらい、くだらない記憶も。
もう二度と思い出したくないってのにいつまでも頭にこびりついて取れない、嫌な記憶も。
……思い出せる記憶があるってのはさ、それだけで幸せなことなんだぜ』
そう言って彼はさみしそうに笑っていた。
その言葉を彼から聞いたのはもうずいぶん昔、私が10歳の時で。彼は外から街にやって来た旅人だった。
彼がその後どう街で過ごしていたか、いつ頃街を出て行ったか、全く覚えていない。
ただ思い出すのは、あの言葉と表情だけだ。
「……思い出す記憶があるのは、それだけで幸せなこと」
私は今日もそう呟いて、ひとりさみしさを紛らわすのだった。
『遠い日の記憶』
7/17/2024, 1:58:56 PM