喧嘩して、飛び出したあたしをきみは迎えに来てくれた。ものすごい怖い顔してた。でも怒られはしなかった。「帰るぞ」と、それだけ言って右手を掴まれ家までの道を歩いてる今。
無理矢理引っ張られて歩かされてるからきみの背中が見える。背中もやっぱり怒ってる。勝手に飛び出したこともそうだし、こんな時間に迷惑かけるなバカヤロって言いたいんだと思う。
ごめんなさい、って、言わなきゃダメなのに。つまらない意地がそうさせてくれない。喧嘩の原因なんてもうほとんど忘れかけてる。どっちが悪いかなんてどうでもよくなってる。ていうか多分、どっちも悪いんだと思う。
「寒いね」
ごめんでもありがとうでもなく、場違いなことをあたしが言ったから、きみは思わずこっちを見た。まるで珍獣を見るかのように凝視された。だって本当のことだもん。飛び出したのがかれこれ2時間くらい前。そこからずっと外にいたから身体が冷えちゃった。
なのに。
「全然。むしろ暑い」
よく見るときみの格好は半袖のTシャツ1枚だけ。まだ夜は冷えるのに、そんな薄着でよく彷徨けたね。心の声に留めておくはずが、無意識に口にしてたらしい。あたしの言葉を聞いてきみは眉間に深いシワを刻む。
「誰かさんが突然姿を消すから探して走り回ったせいで、今もの凄く暑い」
「あ……そ、なんだ」
「なんだその返事は」
「だって、そしたら、私のせいじゃん」
「そうなるな」
けど、そう言った時のきみの顔。斜め後ろからほんのちょっと見えた時、私には笑ってるふうに見えた。もう怒ってないのが分かったから、その腕に思い切り抱きついた。
「ほんとだ。暑いや」
「抱きつくな、暑苦しい」
ひどい。でも言葉と裏腹、引き剥がされるようなことはなかった。あれ、そう言えばなんでこんな時間にこんな所にいるんだっけ。忘れちゃうくらいだから、きっと大したことじゃないんだ。
「あそこのコンビニ寄ろ。アイス食べたい」
「お前の奢りな」
「財布持ってない」
「ざけんな」
きっとこんなふうに大したことない諍いが積み重なって、そのおかげでもっと好きになるのでしょう。今日のことも必要だった。そーゆうこと。
帰りにちゃんとアイス買ってもらえた。パピコ半分こして帰りました。
5/29/2024, 9:43:49 AM