帽子かぶって
とある三兄弟のお話。
長男より。
いつもより下にある丸い頭がゆらゆらと揺れながら何かを探している。出掛けることになってから少々時間を掛けて準備をしていたはずだが、同行する予定の弟が、ん、と足を伸ばし方足立になりながら何かに一生懸命手を伸ばす姿を、かれこれ15分前から見かけていた。どうやら用はやっと解決したようで、よいしょ、と呟くと伸ばした足を戻し、いつものようにスラリと背筋を伸ばし二本足で立つ。
「はい」
手渡されたそれは一つの黒い帽子だった。見覚えのある帽子だなと思ったが、少しの逡巡のあとその覚えに合点がいく。
「俺が使ってたやつ、よくそこにあるって分かったな」
懐かしいそれはまだ学生だった頃に使っていた帽子だった。小洒落てて、使い勝手は良かったが、私服の傾向とあまり合わなかったことから、歴に比べて状態はとても良い。
「かぶって」
「これまた急だな」
いいから、と少し低い目線がぐんと近づいてきて頭にぽんと帽子を乗せる。随分長い間被っていなかったはずなのに、お前は変わっていないなとばかりにすっぽりハマった帽子が少し気に食わない。
「うん」
満足げに頷く末の弟に、思わず何がと聞いてしまう。
「その服に似合うと思って」
あと今日は日差しが強いから、と。
可愛いやつめ。
1/28/2025, 11:26:21 AM