短い小説 『微熱』
無限に草原が広がり、太陽がポカポカと照っている心地よい日。人間含め、生物はこの日ものんびりと暮らしていた。
人間は他の生物と比べ、毛が薄く、これといった能力もないため、常に集団で行動しなければならなかった。
一人バタリと倒れた。周りに仲間が群がる。おでこを触ってみると少しばかり熱かった。
そういえばここ数日食べ物もろくに獲得できず水もろくに飲まずで歩き続けていた。倒れる人が出てくるのも当然だ。
医療の“い”の文字の一画目も発達していない時代。微熱すらも大事であった。
群れの中に治療法を知っている者がおり、前に出てきた。
彼は藁の入れ物から木の実やらどんぐり、薬草やら取り出し、それらを自分の口に入れた。しばらく咀嚼した後、地面に大きめの木の葉を敷き、その上に全部吐き出し、少しずつ患者の口に入れた。
数時間すると患者はむくりと起き上がり、すっかりと元気を取り戻した。
今では有り得ないようなことだが、当時はこれで治ると信じられていた。プラセボだとしても、これはある意味効果絶大だったのだろう。
11/27/2022, 6:03:58 AM