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目が覚めるまでに…

クーラーは寝る時につけるのは好きじゃないから、扇風機を廻して目を閉じる。

ゆっくり音もなくファンが回転してくるくると部屋の空気をかき混ぜている。

今日も好きな音楽をイヤフォンで聞きながら、一分もかからず眠りに入った。

急がなくちゃ…。

人は眠りにつくと、ここではない別の世界に行くと言われている…それはこの世とあの世の境目であり、空と宇宙の狭間であり、夢の世界でもある。

私は飛ぶ。

あちらの世界に旅立ってしまった大切な人達の伝言を聞くために…時代を越えて、沢山の人達に会わなければならないのだ。

久しぶり!こっちは心配ないよ!と伝えつつ、うん、うん、そっか、そっか、了解!覚えとくね!と別れる。

飛びながら、忘れない、忘れないと強く思わないと記憶がはらはらと、透明になってしまう。

そろそろ、戻らなきゃいけない頃合いになると忘れない伝言の、一番濃くて強い想いのものだけしか毎回覚えていられない事に悔しい思いをする。

仕方がないよ…沢山の人の伝えたい想いは飛んでいるうちにどんどん透明になってしまうんだもの。

こちらの世界の自分の体は、ひとつ覚える度に寝返りをして、またひとつ頼まれる毎に寝返りをして、
うーん…と、なんとなく目を開けると現実に一挙に戻される。

まだ、まどろんでいるうちに覚えている記憶…あ〜こんな夢を見たなぁ…懐かしいなぁ…そうか、そういえば…と、次第に夢の内容を思い出していく。

それが、覚えている唯一の託された伝言なのだと思う。

目が覚めるまでに、どのくらいの伝言を持ち帰れるか…それは、私のその日眠りにつくまでの体調や気持ちの起伏、リラックス要素などで変わってしまうので、なかなか難しい。

毎回、この世とあの世の境目をウロウロしているけれど、時々空と宇宙の狭間を彷徨ってこの世で大切な人が、寂しがっていないか、ゆっくり眠れているかを瞬速で確認してみたいと、密かに思っている。

今夜も、涼しい風を受けながら…
なるべく多くの伝言を聞きに、飛び立たなくちゃ…
時間がないぞ…焦らず、焦らず、
目が覚めるまでに…




*読んで下さり ありがとうございます*


8/3/2023, 11:28:46 AM