池上さゆり

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 不登校だった私の元にある日、楽園とだけ書かれたチケットのようなものが届いた。日付が変わる十二時に窓を開けてお待ちください。お迎えにあがりますとだけ書かれている。
 誰かのイタズラだろうと思いながらも、心のどこかで期待しつつ夜中を待っていた。少し仮眠を取って、眩しさで目を開けると窓の外が光っていた。真っ白な光が部屋を照らしている。窓を開けてみると、まさしく天使のような笑顔を浮かべた小学校低学年ぐらいの女の子が手を伸ばしていた。なにも言葉を発さないまま、導かれるようにその手を取った。
 ふわりと身体が浮いて、目も開けてられないほどの強い光に包まれた。次に目を開けたときは、色鮮やかな花畑がどこまでも続いていた。楽園という名にふさわしい場所だった。先ほどまで手を握っていたはずの女の子もいなくなっており、なんとなく歩いてみる。裸足なのに、痛みはなく、地面は柔らかくて温かい。
 すると、どこからか泣き声が聞こえた。声がする方へ走っていくと見覚えのある背中があった。すぐ近くまで来ているのにその子は私に気づかない。正面にまわって顔をのぞいてみると、私を不登校にまで追い詰めた張本人だった。思わず、後ずさる。
 ごめんなさいとひたすらに繰り返している。なにに対して謝っているのかはわからない。戸惑っていると、後ろから突然服の裾を引っ張られた。そこにいたのは迎えに来てくれた天使の女の子だった。
「その子が泣いてる理由知りたい?」
 首を横に振る。今さら、この人のことを知りたいなんて思えない。その場を去ってもずっと耳の中には彼女の泣き声がこびりついていた。時間だよと再び女の子がお迎えに来る。あっという間に元いた部屋に戻された。泣いている理由ぐらい聞いても良かったかもしないと後悔していた。
 次の日、なんとなく保健室登校ならできる気がして三時間目が終わるぐらいの時間に学校へ行った。だが、保健室に先生はおらず空いていたベッドを勝手に使った。カーテンが閉められた隣のベッドから聞こえてきたのは昨日と同じ泣き声。
「どうしたの」
 顔を見ずになら、歩み寄れる気がした。

4/30/2023, 12:35:54 PM