とある少女は言いました
私の母は貴族だった、と
でも駆け落ちをして遠く離れた街で暮らした、と
私はいわゆる貴族の娘
結婚する相手も貴族
婚約者だって決められている
でもたまにしか会えない婚約者よりも
身近な執事のことを好きになった
あなたと一緒にいたいと何度も言った
執事は何度も断った
もしバレたらあなたとは一生会えなくなる、と
私はそれでも良かった
一瞬でもあなたが私だけを見てくれるなら…
私が駆け落ちしたところで妹がいるから大丈夫
弟もいるから後継者だっている
私一人が執事と居なくなるだけで困ることはない
だから私と一緒にいて欲しい
職業は逃げた先で決めればいい
しばらく暮らすお金ならある
と何度も何度も話してみた
結局はタラレバの話
半ば諦めていた
12月、私の誕生日が来た
友達や親戚などからたくさんのプレゼントが届いた
執事はプレゼントを運んで来た
一つだけ手に抱えて
手に抱えていたのは執事からのプレゼント
中にはウィッグとメイドの服
はっとして執事を見る
「私と一緒にいてくれますか?」
返事は決まっていた
私の誕生日の1週間後
私と彼は裏の門をくぐって敷地から出ていった
追っ手は来ていなかった
それから私たちは結婚した
可愛い子供も授かった
幸せな家庭を築いた
もう思い残すことはなかった
強いて言うなら娘の花嫁姿を見たかった
そう言って目を閉じた
とある少女は言いました
母はとても素敵な人だった、と
そんな母に今日という日を迎えて欲しかった、
花嫁姿を見せたかった、と
12/3/2025, 8:23:11 AM