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薄暗いマンションのエレベーター。
スマホの着信音がなる。
圭介は、メールを確認して、うんざりした顔でスマホをスーツのポッケにしまった。
今は、それどころじゃない。エレベーターが止まったのだ。動くまで30分かかるらしい。
「‥はぁ」
圭介は、一緒に閉じ込められた人を見て、肩を落とした。
(これが綺麗なお姉さんだったら‥)
買い物袋からネギの香りがただよう。
「地震の影響かしらねぇ」
「ですねぇ‥」
自分の母親と同じくらいだろうか。
他愛もない話で、時間を潰した。

30分以上たった。
エレベーターは動かない。
圭介は、おばさんに膝枕されていた。
めまいを起こして、ぶっ倒れたのだ。
「‥本当にすみません」
「いいから、いいから。困ったときは、お互い様よぉ」
残業続きで寝てないからか、対人関係が元から得意ではないからなのか。冷や汗がでて、身体に力がはいらなかった。
情けなくて、涙がでてくる。
「あら、大丈夫、大丈夫よぉ。」
おばさんは、赤ちゃんをあやすみたいに、圭介の肩を優しくトントンした。
短く浅い呼吸が、だんだん落ち着いて、意識が遠のいていく。
懐かしい匂いがして、記憶が蘇る。

熱を出して、学校を休んだ日。
台所で、ギュ、ギュ、とゴムが鳴る。
氷枕に水を入れる、母の後ろ姿。

2時間後、ようやくエレベーターは動いた。
「あ、アイス溶けちゃう!行くわね!お大事にぃ!」
「‥はい。ありがとうございました」
圭介は、深々と頭を下げた。
おばさんは、足早に帰って行った。
圭介の意識は、まだ、ぼんやりしている。
ポッケからスマホを取り出し、プッシュボタンを押した。
スマホから、ハイテンションな声が返ってくる。
「‥うん‥うん。元気、元気。今度の連休、家にいる?」
圭介は、数年ぶりに母に電話をかけた。



元気にしていますか?
ご飯はちゃんと、食べてますか?
ベランダに菜の花が咲いたので、テーブルに飾りました。とても綺麗です。
母より

3/21/2026, 1:22:38 AM