芝草

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『天気の話なんてどうだっていいんだ。僕が話したいことは、』



その日の放課後は、大粒の雨が降っていた。

学校から、やっとの思いで辿り着いたバス停の屋根の下にいたのは、僕の幼馴染だった。
そいつは、頭の先からつま先までびしょ濡れで、ベンチに一人座っていた。

「お前、どうしたんだよ」
幼馴染は僕の声に弾かれたように顔を上げる。
それから、小さなため息と一緒に呟いた。
「あぁ、キミか」

濡れてペチャンコになった幼馴染の前髪が揺れて、ぼたりと大きな雫がこぼれた。
「私、傘忘れちゃってさ。まいったね。酷い雨だな」
僕が何も言えないでいるうちに、幼馴染は「明日も雨なのかなぁ、梅雨だしね」なんて言いながら、真っ赤に腫れた目で力無く微笑んだ。

ツッコミどころは山ほどあった。
今日は朝からずっと雨だっただろ、とか。
雨に濡れただけで、目が赤く腫れるわけないだろ、とか。

でも、天気の話なんてどうだっていいんだ。僕が話したいことは、お前が話していない話題なんだから。

しかし、僕らは幼馴染だ。お前が頑固で強がりなことは、長年の付き合いでわかってる。
だから、お前が話さないと決めたことを、僕が覆すことはできないだろう。

でも、僕だって決めてることがある。
僕はお前を一人ぼっちなんかにさせない。
これは、お前だって覆せないだろ。

だから、僕は何も言わずに、びしょ濡れの幼馴染の隣に座った。

とはいえ、僕には沈黙が重すぎた。
僕の口からポロリと出てしまったのは、どうでもよかったはずの話題。

「早く晴れるといいな」

幼馴染が頷いたのだろう。
僕の隣で雫が流れて小さく輝いた。

5/31/2023, 2:41:43 PM