窓口に来た男と係の男がテーブル越しに睨み合っている。どちらもメガネをかけている。
「なあ、もう少し賃金を上げてもらえないか? それがダメなら税金をちょっとばかし減らしてくれよ」
労働者と見られる男はへりくだって申し入れをしている。低姿勢を装ってはいるが、内心の苛立ちを隠し切れていない。
「できません。税はみなさんを支えるために必要なものです」
まるまると肥え太った顔をした係の男は表情を変えずに答えた。
「その税金に俺たちが苦しめられてるって話だろうよ」
労働者はイライラを声に乗せて言った。
「いいえ、税はあなたたちを支えています」
係の男はキッパリと言った。
「へ、何も知らねぇでいいご身分だな。お前さんたちはあったかい部屋でぬくぬくと暮らしてるから、そのメガネが曇ってんだよ。メガネを取って凍えながら街路を歩く連中を見やがれってんだ。着る物もなく食うのもやっとで、生きてるだけで金を取られるんだ。税金だって? お前さんたちがふんだくる金だよ。庶民とあんたらの温度差が広がるほどそのメガネはますます曇っていくんだろうよ」
労働者は一気に捲し立てた。それでも係の男の表情は変わらない。
「おっしゃっていることはよくわかりました。ですがあなたたちこそ、我々国家のことを何もわかってらっしゃらない」
「なんだと?」
「庶民と国家の温度差は確かに大きい。ですがそれは国家の方が冷え切っていて、メガネが曇っているのはみなさんの方です」
「おい、おちょくるのもいい加減にしろよ!」
「いいえ、国家はいま極貧状態なのです。……国家には何百兆もの借金がある」
「開き直るんじゃねぇや!」
3/23/2025, 11:52:15 PM