ゆじび

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「泥にまみれた指輪」



「流星。ごめん。私多分。」

「怪物の子ーや」

リリーは走った。
海に沈んでいく世界を繰り返し見ながら。
海の欠片を空へ投げたした。


リリーは足を止めた。
ここが避難所?
リリーは大きな建物のなかに足を踏み込んだ。
『ふんぞり返っとる偉そうな人』
流星が言っていた特徴の人間を探す。
見当たらない。
だからそこら辺にいる男の人に声をかけた。
「なぁ。お兄さん。愛奪還組って知っとる?」
「あ?どうしたんだ。」
「愛奪還組。」
「愛奪還組か。そうだな。愛奪還組っつーのは
身内が怪物に殺された子供が集まる場所だな。
確か14歳から戦場に立つんだってな。
本当に政府はなに考えてるだろうな。
14っつたらまだまだガキじゃねぇか。」
「そう。お兄さんありがと。」
「あぁ。気を付けろよー」

リリーは歩いた。
お兄さんから聞いた情報。そのなかでも14歳からしか
戦えない。
私はきっと――だからすぐに戦場には立てそうだ。
でもこの格好じゃ駄目か。
その時アナウンスが流れた。
『愛奪還組によって怪物が討伐されました。
ですがまだまだ警戒体制のため避難所での待機をお願いします。』 
流星。生きてる?
いや。きっともう――
だって流星は私を愛奪還組に行かせようとした。
きっと生きてても私を生涯孤独にするために。
私のために―自害するだろう。


リリーは避難所の裏口に足を向けた。
ここなら誰もいない。
避難所の外は危険かもしれない。
でも。それでも。
リリーは流星とリリーの家へ足を走らせた。
ここでは小さな体が役に立った。
誰にもバレずに帰ることができたのだから。
最中。流星と別れた道を通った。
確かにあった死体は全て回収されていてなにもなかったように見える。
「――流星。どこにおるん?」
もういないとは分かっていた。
でも。縋らずにはいられなかった。
流星がいるという未来を。


リリーは家に着いた。
部屋に入り流星の適当な服を一着とった。
リリーは流星の買ってくれた白色のワンピースを脱ぎ、あと1つ。首についているネックレスをとった。
おもちゃの指輪が寂しそうに着いたネックレス。
床にやさしくおいた。
その瞬間リリーの身体が紫色の泥のようなものに変わった。
そして瞬く間に14歳と言えるような体格に変わった。
「ほらな。――やっぱ私は。怪物や」
声すら少し大人びて聞こえる。
リリーは流星の服を着た。
ネックレスは首にかけて服のなかに隠した。
ワンピースを抱えてアパートの前にいった。
リリーは穴を掘る。
ある程度の穴があいたらそこにワンピースを埋めた。



「リリー。これでどうや?」
「流星。あんたセンスええやん。」
流星がピンクの宝石が着いたおもちゃの指輪を手に乗せて見せてきた。
「まぁ。安いけどな。」
「あほ。私らにとっては高級品やろ。」
少し幼げなリリーの声だ。
「じゃあ。流星はこれな。」
青色の宝石の着いたおもちゃの指輪を手に乗せる。
「そちらもセンスええやんけ。」
「へへ。やろ。」

家の近くのお店。
おもちゃ屋でお揃いの指輪を買った。
でも子供用で流星の指にはめることはできなかった。
だから2人は100均でネックレスを買いそこに着けて
お互いの首につけた。

「なぁリリー。いつかは宝石がいっぱいついた指輪買ったるからな。」
「――ほんまに?」
「あぁ。約束や。」

この約束は果たされることがなかったけど。
リリーの心にはずっと残っている。



リリーは避難所までの道のりを一人で歩いた。
リリーは思い出していた。
あの日の。初めてこの世界に降り立った日を。
怪物の星の事を。


リリーには名前がなかった。
いや。怪物は名前を持たなかった。
地球とは遠くはなれた星。
遠目からみると紫一色の星。
そこには地面を埋め尽くすほど多くのの紫色の泥のようなものがいた。
そんな星にある日、1機の宇宙船が着陸した。
着陸する際に3体ほどの泥は潰れて消えた。
それでも泥たちは何も感じない。
その宇宙船からは、
一人の男と一人の女がでてきた。
男は泥にふれる。
すると装備ごと指が溶けた。
人間と泥は相性が悪かったのだろう。
すると男は女を宇宙船に押し込んだ。
そしてこう言うのだ。
「俺はもう手遅れだ。お前だけでも家に帰ってくれ。
家族を頼んだぞ。」
「貴方。貴方。嫌よっ。」
「すまない。俺の足も、もう。」
男の足は泥に埋まり少しずつ溶けていく。
「じゃあな。あんまり早くこっちに来るんじゃないぞ。――愛している。」
男はそういって扉を閉めた。
男の目にも女の目にも水が浮かんで見えた。
男はそのまま溶けていき消えてしまった。

そこで泥は考えた。
「あれは。なんだ?」
泥は「愛」が分からなかった。
だから、愛を知ろうと考えた。
泥は地球へと宇宙を飛び、着陸した。

ある泥は魚に出会う。
大きな魚が小さな魚を補食する。
そして泥は思う。
「これは愛」

ある泥は人間に出会う。し
一般の家庭。
肉を食べ「このお肉大好き!!」
これも愛。

ある泥は虫に出会う。
角を大きく使い、相手を吹き飛ばす。
これも愛。

ある泥は2人の男女に出会う。
男が女を叩いた。
男は笑う。女も微かに愛されていると笑う。
これも愛。

ある泥は2人の女に出会う。
「誰も許してくれないなら。」
部屋の窓を全てしめ、煙をたく。
手を繋ぎあって動かなくなった。
これも愛。


そして泥は姿を変えた、魚、鳥、人間、虫。
全てが混ざりあい、不気味な容姿になる。
泥が怪物になっていく。
そして愛そうとするのだ。生き物を。
殺すこと。食べること。叩くこと。共に死ぬこと。
全てが「愛」なのだ。

愛するとはこのことなのだ。



そうして怪物は人を殺し、食らうようになった。
 愛するために。
しかしだんだん怪物は討伐対象へとなっていく。
「愛奪還組」に生きて確保された個体は研究施設に閉じ込められた。
研究施設ではたくさんの怪物が謎の液体のはいった入れ物に密封される。

今回も新しい個体が送られてきた。
泥の状態のままだった。
そして泥が密封される前に泥は自らの一部を剥ぎ、
逃がした。
怪物には愛がない。
その為夫婦となり、子を孕むという考えがない。
子供というものは、先程のように産み落とされる。
その子供には母体の記憶が受け継がれる。

そしてその子供というのがリリーだった。

リリーは研究施設の端で母体をみていた。
母体は「Lyly37」とかかれた容器にいれられる。
数字は恐らく確保している怪物の数。
「Lyly」というのは怪物全体の名称。
正しくはライライと呼ぶらしい。

母体の入った容器の前で研究者らしき人と助手が話していた。
「葉落様。研究結果が出ました。」
「花咲くんか。遂にでたか。聞こう。」
――
「そうか。もっと研究対象がいる。愛奪還組をもっと大きな組織にするのだ。」

名前。それは愛なの?
「Lyly」という文字をリリーはこう読んだ。
「りりー?」
そうしてリリーは「リリー」と名乗るようになった。

どうして忘れていたんだろう。

怪物としての記憶は流星と暮らすために必要ないと切り捨てたのだろうか。



そして現在に巻き戻る。

リリーは避難所についた。

そこには愛奪還組のような人が集まっていた。
怖い。もしかしたら討伐されてしまうかもしれない。
でも流星がくれた夢だから。
「ねぇお姉さんたち。私。家族が死んじゃった」
泣き声混じりに言った。
愛奪還組のお姉さんは心配そうにリリーをみていた。

そうしてリリーは愛奪還組につれられ、愛奪還組の
拠点へと行くことができたのだ。

「リリー隊員」
「はいっ」
リリーは愛奪還組の待機所にて初戦に向けた準備をしていた。
『上谷隊長』が声をかけてきた。
「リリー隊員が言っていた「流星」くんの特徴と当てはまる男の子が先日の戦いで回収された死体のなかに
いた。」
「――」
あぁ。やっぱり。リリーは唇を噛み締める。
「流星くんが死後。死体になっても必死に握りしめていたものがあってな。」
上谷隊長がハンカチに包まれたなにかを私に差し出した。
「これは。」
「開いてみるといい。」
そこにはあの日。お揃いで買った青色の宝石のついたおもちゃの指輪のネックレスが寂しそうに包まれていた。
「流星くんの持ち物で違いないか?」
「――。これは」
リリの目には涙がたまった。
リリーは震える手で服のなかからピンクの宝石が着いたおもちゃの指輪を取り出した。
「――はい。むかし流星とお揃いで買ったものです」
「――そうか。 それは流星くんとお前のものだ。
すきにするといい。」
「――ほんまに。ありがとうございます。」
上谷隊長はリリーの肩をやさしく二度叩き歩いていった。
リリーは涙が止まらなかった。


リリーの涙が枯れ果てたとき。
リリーは流星のネックレスを首からかけた。
二つのネックレスは少し窮屈そうに見える。
でもあの頃のリリーと流星のように。狭い部屋。くっつきあって。満たされているように見える。

ネックレスを服のなかにしまった。
リリーの目には迷いなんてなかった。

愛を知りたい。
愛を知って流星を愛したい。
私は流星に愛されていると胸を張って言いたい。
もしそれが。同族殺しで。
自分を偽ることになっても。



「あんたが笑ってくれるならそれで。」

4/2/2026, 5:20:25 AM