一森くま

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第四話 
(全四話 お読みくださった方ありがとうございます)

車のバックする音が聞こえる。
暫くの間、目を瞑ったままいたらそのまま本当に寝てしまった。上司に気を遣うこと以外はユルい事務の職場だと思っていたけれど、ここ数ヶ月は相当疲れていたようだ。
それにしても今まで、裕斗の助手席で寝てしまうなんてことあっただろうか?彼にどう思われても良いという、ヤケクソな自分が居るという事だろうか。

「あー、やっぱダメだ!!」

裕斗の大きな声で目が覚めた。

「どうしたの?!」

咄嗟に出た言葉でさらに裕斗を傷つけてはいないかドキドキした。さっきまでしっかりと寝ていたくせに。

「色々考えてたんだけど上手く出来そうもないや」

一体なにのことだかわからない。
焦った顔して見つめられると、次に出てくる言葉は何なのか怖くなる。

「待って…これって別れ話?」

「いや、そう思わせてたとしたらごめん。
実は転勤が決まって」

「え、別れ話じゃん」

「じゃなくて…」

裕斗の計画では、初めてのデートで行った植物園に向かう予定だったらしい。私が寝ている間にスマホで確認したら水道の故障で臨時休業になっていて、ある作戦がダメになり、どうしたら良いのか考えていたらしい。
裕斗は前から計画性はあるけど、変化に伴う適応力があまり無い。もっと相談してほしいと最初の頃は言っていたけど、結局自分で決めるので後からちょっと困ったことになっていたのを思い出した。
でも、やると決めたことは絶対やり抜くし、後輩の面倒見も良い。先輩でも間違ったことは間違ってるとハッキリ言うタイプだ。人よりも少し不器用だけど、真っ直ぐ、実直に生きる姿が好きだったことを思い出した。そういう彼が好きだから、こうやって今まで側にいたのだから。

「その、ある作戦ってなに?」

「いや、あの、プロポーズ」

この手の話は急にやってくるとは聞いていたが、今なのか。裕斗ははっきりと私を見つめている。三年前に戻ったみたいだった。

「昇進してから、というかする前あたりから。気にかけてあげられてないのは分かっていたんだけど。どうしても気持ちが前に行っちゃってて、仕事を頑張れば美咲との関係も進められるって思ってたんだ」

「 頑張ってるのは知ってたよ。仕事の話聞かされる度に。裕斗に比べたら、私なんてちっぽけなことで悩んでたりして私も私で相談できなかったし。ごめんね」

「別に張り合わなくてもいいのに、美咲が俺に劣等感みたいなものを感じてるのは分かってた。だけど、仕事頑張るしか思いつかなくて。…ごめん」

「こうやって感情出して話すの久しぶりだね」  

「そうだね」

コンビニの駐車場で今までのことをずっと喋った。
何も持ってない、何も背負っていなかった時の二人に戻って。お父さんが言っていたのを思い出した。
『ニンゲン、大事な人に謝れなくなったら終わりだ』って。



「あの時植物園で買ったサボテン覚えてる?」

「ああ、上がピンクで小さめのやつ!確か裕斗の家が日当たりが良いから、ウチからそっちに移したんだよね」

「そう。あれだけは大事に育ててたんだけど、昨日枯れたんだよね」

「…そうなんだ」

「その時、サボテンに警告された気がした笑」

「なにを?笑」

「美咲は死ぬまで大事にしろって」

私達は終わり、じゃないかもしれない。
  
ー終ー

3/28/2024, 3:59:31 PM