高貴な音楽と共に足を弾ませて華麗に踊る。
沢山の人々の中に紛れて、手を取り合っていく。
美しいドレスが花のように広がって。
どこを見渡しても華美な絵画に置物に食事に庭がある。
「お嬢様、失礼致します。」
「どうぞ」
「舞踏会は無事終了致しました。本日も何事もなくご来客頂いた方々が安全で安心できるような舞踏会を開けられたこと誠に光栄でございます。お嬢様も本日は大変疲弊なさったとお思いですので休息なさってください。」
「ありがとうムッシュ。」
「とんでも御座いません。それでは、失礼致します」
気品高い細々とした物がこの部屋、城には沢山ある。
クローゼット1つにもクリスタルや価値の高い宝石が使われている。
誰もが憧れるこの豪邸に、私は王女として住んでいる。
私はこの国のトップに生まれた。
生まれたときからキラキラした輝いたものばかりに囲まれていて、食事も身の回りの事も全て執事やメイドがやってくれていた。
当たり前だけど、私だって国のことは沢山知っているし常に毎日勉強しなくてはならない。
学校という場所に通っていない限りは、物心なんかがつくそのずっと前からもう頭が良くないとならない。
けれど私は、この暮らしに嫌気がさしたことはない。
そもそも、容姿や中身で困ったことがない私は外に出て自由を望むわけでもない。外なんかに出たら、あっという間に世界中が大騒ぎするから。
かといって、いくら外の世界に出ない私でも私、いや私たち貴族に向けて世間からどんな風に見られているのかは知っている。
"なんでもかんでも召使いがやってくれる"、"自分達だけが良い暮らしをしてる"、"どうせお城の中は意味もなく高価な物だらけ"
そんな偏見は、私たちの耳にも入っている。
正直、中には事実もある。
生活のことは全て執事やメイドにやって貰っているし毎日豪華で健康な食事をさせて頂いているし、艶やかなお城に住んでいるのは事実。
だけど、私には一つだけ命のように大切な物がある。
それがティーカップだ。
それは、1つ1つのデザインが細々とした宝石でできていたり絵画が描かれていたりはしない。
飲み口が全体的に少しくすんだ赤色で、手で持つ部分は普通の形。決してお花のような形にはなっていない。
そんなティーカップのどこが良いのか、と思うかもしれませんが私は大事に大事にしています。
ここのお妃である母が病で亡くなってしまったときの形見ですから。
妃が存在しない国なんてと母が亡くなってから10日の間、ずっと言われ続けている。
私は母が亡くなってからこのお城の豪華さ、食事が毎日用意されている有り難をより理解するようになった。
全てが繊細で美しく作られていて、ドレスや靴も全てが特別な物だ。
けど、この少し小さくて今の私には足りないくらいの紅茶しか飲むことの出来ないティーカップが、私の生きる意味をまた少しづつ、伸ばしていてくれる。
"ティーカップ"
11/12/2025, 4:02:27 PM