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 久しぶりに友人の家を訪れた。すっきり整理された部屋の椅子に腰掛けると、壁に羽根のついた飾りがあった。「お土産にもらったの。何か縁起がいいものらしいよ」。「何かいいことあった?」。「あったのか、なかったのか」。

 コーヒーを飲んでいると、友人の携帯電話に連絡が入った。幼なじみからだそうだ。「近くまできているみたい」。「ここに呼んでみたら?」。
友人とその人は、側から見てもいい感じだと思っていた。でも、友達なのだそうだ。「ああ、いいの?」。「私は、いいよ」。

 しばらくすると、玄関のチャイムが鳴った。人懐っこい笑顔がのぞく。「どうぞ」。友人の声もどこか弾んで聞こえる。ドアが大きく開くと、開いた窓からさーっと風が通り抜けた。「あ、飾ってくれてるんだ」。嬉しそうな声がする。
 壁の羽根飾りが、さっきの風で優しくふわふわと揺れていた。


「揺れる羽根」

10/26/2025, 8:03:39 AM