♯繊細な花
ひどく乱れた、儚く美しいその輪郭を。
私はなぞる。
壊れ物に触れるかのように、そっと指を動かす。
震える手にゆっくりと、ゆっくりと、力を入れて。
上から右へ、徐々に左下へと、円を結ぶためになぞる。
そうすれば、きっとこの花は枯れないような気がするのだ。
円で結ばれたこの花だけは、私が真っ黒なキャンバスから切り取って、持ち帰ってもいいような気がするのだ。
そして、それができるのはこの世界に独りだけの私だけ。自惚れなんかじゃない、窓越しでも爛々と私の孤独を照らし出すこの花は、私が摘み取るために咲いてるんじゃないかって。ふとそう思った自分がいるだけだ。
外の世界は、何時だって私を置いてけぼりする。
今日だって外の世界は、あの花を捕まえようともせず、ただぽけっと見上げて夏の思い出作りで終わろうとしている人間がわんさかいる。
私だって。
そこに行きたいのに。
再び、真っ暗な孤独から唯一無二の花が浮かび上がる。
今度こそ。私は指を伸ばしてあのいちばん大きな花をなぞろうとした。
しかし。生憎私には、時間が足りないから。だから、それはいつもなぞり終える前に、散ってしまう。
夜空に浮かび上がる大輪の花は私に捕まえてほしくないみたいだ。
6/25/2023, 2:25:02 PM