パチパチとなる音の隙間から水滴に滲んだ見慣れた景色が見えてくる。
サーサーとなる音。灰色の雲。雨の中に入り込むような感覚。自分一人になるような。置いてかれるような。
頭がガンガン揺れる中、見知った景色が水滴に味方されキラキラと輝いて見えると、なぜか安心した。
もう、目の奥に力を入れなくてもよいのだ。
視界が歪むのは雨のせいなのか、自分自身のせいなのか、もう僕は何もわからないでいた。でも、もうどちらだってよかった。僕すらも知らない真実は、傘の中だけが知っている。傘の中だけの秘密だ。
石ころにつまずいて、張っていた水分がほろっと地面に落ちる。けれども、濡れているコンクリートには何一つとして証拠が残らなかった。僕はそれが嬉しかった。
/傘の中の秘密
6/2/2025, 1:31:49 PM