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『それでいい』


 そう言われるのが嫌だった。
 たぶんそれを妥協されているような気持ちになったからだろう。
 お前ならそのくらいだ、暗にそう言われているようで素直に受け取れたことはない。
 こんなに頑張ったのにと主張するつもりはけれどない。
 悪気がないのはわかっているし、なんならこっちを認めているつもりなのもわかってたから。
 それでもなんだか、言われることが嫌だった。

 こういうとき『普通』なら泣くんだろうか。
 見下ろしてる姿を見つめながらそう感じている自分がひどく冷淡に思えた。
 別れの言葉をと言われても、なにを言えばいいのかなんてわからない。
 そうしてる間にも時間はなくなっていっているのはわかってる。
 それでも泣くでもなくすがるでもなく、ただ見つめているだけだった。
 大切な人だと思っているなら、もっとこう、あるんじゃないのか。
 そう『普通』と思うものと比べようとするのをやめろと何度も言われていたけれど、こんなときまで変えられない。
 それどころじゃないのに、自分がどんどん嫌になる。
 そのとき、もう開かないと思っていた目がこちらを見て口を動かした。

「 」

 ここでもまたその言葉。
 なにをしても、しなくてもお前はお前だ。
 ああ、わかってる、わかってるんだよそんなこと。
 土壇場まで世話をかけるなんて、情けない。
 そう思った時、自然と口が父さんと相手を呼んでいたけど、その先に何を言えばいいのか、やっぱりわからないままだった。

4/4/2024, 3:07:34 PM