白雪

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「おかえりなさい。」

そう言えばただいまといいながら私に優しくキスを落とす彼。私の顔を眺めて満足したように微笑んだ後、私の手を引いてリビングに向かった。

「今日スーパーに行ったらね--」

楽しく今日の出来事を話す私をニコニコ見つめながら彼は私の作ったご飯を美味しそうに食べて、お風呂上がりの私の髪の毛を乾かしてくれた。

私を抱き上げ膝の上に乗せた後、かわいいねなんて甘い言葉を言いながら私の髪に指を通して遊んでいる。

2人で抱きしめ合いながらぽかぽか眠りについて、今日も幸せだった。















夜中に頭を撫でられる感触がして目が覚めてしまって、ああ、またかと思った。

起きたことがバレないように薄目を開けると、彼がベットに腰掛けて私の頭を泣きながら撫でている。


『好きだよ、柚ちゃん。』


そう言った表情は苦しそうな、辛そうな顔だった。


なんでたまに夜中に起きて私を見ながら泣いているかとか、他の女の子の名前を呼んでいるかなんて、知らない。

周りから私達カップルがお似合いだね、といっぱい言われても、私は感じてしまっていた。

彼は可愛いと言う時は確かに本心なんだろうけど、『好き』と言う言葉は多分、本当に多分だけど私に言っていない。私に向かって言っているけど、私自身に好きとは言っていないのだ。


まるで、私を通して誰かに愛を伝えているかのような。『好き』と言う時彼の目をじっと見つめてみたら、私の奥の誰かを見ているようだった。


この前彼の小さい頃のアルバムを勝手に見ていたら、1人の女の子と手を繋いで幸せそうに笑い合っていた写真を見つけたことがある。幼稚園生くらいから高校生くらいまでの彼の写真の隣には全部その女の子がいた。



その女の子は、あまりにも私とそっくりだった。
顔がすごく似ていて、一瞬私かと思ったほどだ。




ただ、私は彼の事が大好きだし、愛している。



だから、その女の子との写真の裏に(好きだよ)なんて書かれていることも、私たちが付き合い始めた日の日時にあった結婚式の招待状に、彼が夜泣きながら呟く「柚」という名前が新婦として書かれていたことも、全部全部気がつかないふりをする。




私は彼がなんで涙を流しているかなんて、これからも知らなくていいんだ。


#涙の理由


10/11/2024, 9:10:15 AM