「ちょこぉ〜」
俺は家に帰るなり、恋人にダル絡みする。
今日はバレンタインなのだ。以前からきっと用意してくれていると思うけれど、今朝彼女から反応がなかったので帰ってきてすぐに絡んでしまっていた。
「もう、仕方がないですねー」
彼女は苦笑いしながらキッチンに向かう。俺は鎮座して待った。
しばらくすると、カシャカシャと金属音が響くと、甘い香りが漂ってくる。
ちゃんと用意してくれていたのは分かっていても、それがとても嬉しいんだ。
少し時間を置いてから、トレーを持って俺の目の前にシンプルなマグカップが置かれた。
マグカップにはドンと生クリームが乗っかって飲み物が見えない。
「まずはこちらをどうぞ」
どことなく含みのある彼女の言葉に、首をかしげながら生クリームからその飲み物を口に含むと甘さと苦さが広がった。
「? ココア?」
その瞬間、フグのように一気に頬か膨らんだ。
「違いますぅ! ホットチョコレートです! 私結構頑張ったのにー!!」
「え!? チョコレートなの!?」
「きちんと砕いて頑張ったのにー!!」
全然伝わっていない俺に悔しさが溢れたのか、俺の両頬を掴んで引っ張った。
「ひひゃいよー」
両手を目の前に縦に重ねて拝み倒す。砕いたってことはチョコレートを砕いた上でこれ作ったの?
「甘いの好きだと思ったから生クリームも沢山入れたんですよ!?」
「本当にごめん。でも、美味しいし……めちゃくちゃ嬉しいよ」
そう。
凄く嬉しいんだ。
彼女は恨めしそうな視線を俺にぶつけながら、もう一度立ち上がって冷凍庫から何かを取りだして俺の目の前に置いた。
「これって……」
ちょんと置かれたのはチョコレートアイス。
どこか不格好なのは、きっとこれも手作りだからだ。
それが分かるのは、俺は昔これを食べたことがあったから。
出会って間もない頃に、彼女から作ったからとお裾分けで貰ったことがある。手間がかかるものだと分かったからよく覚えていた。
「これも作ってくれたの?」
そう聞くと頬は膨らんでいないけれど、とても唇が尖っていた。
「作りました」
本当に……手作りにこだわるんだよな。
それは彼女が普段からプレゼントにどうするかと悩むと、お金でどうこうするんじゃなくて、手作りして心を込めることを選択する。
クリスマスも俺に合わせた好きな飲み物を手作りしてくれた。
心を込めてくれた。
「ごめんね。本当に、ありがとう。俺、ホットチョコレートって飲んだことなかったからココアとの差が分からなくて酷いこと言っちゃった。ごめんね」
そう伝えて彼女の頬を撫でると、何か驚いた顔をしていた。そして俺の手の上に手を重ねて俺の手に頬を擦り寄せる。
「いいえ。私こそごめんなさい。確かにココアとホットチョコレートの差って分からないかもです」
「一生懸命作ってくれたんでしょ」
「はい」
「愛も込めてくれた?」
「それはいっぱい!!」
ぱあっと明るい笑顔を向けてくれた。
俺への気持ちを込めた! と言う時に、こんな可愛い笑顔を見せてくれるのだから、沢山愛をこめてくれたんだと分かって自然と頬が緩んだ。
「本当にありがとう」
「アイスもホットチョコレートもゆっくり楽しんでくださいね」
「うん」
自然と唇を重ねると、彼女がまた笑う。
「ふふ。チョコレートの味がします」
おわり
二七四、ありがとう
2/14/2025, 12:47:49 PM