わをん

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『たまには』

仕事終わりにたまには酒を飲むのもいいかと街へと繰り出した。繁盛している酒場のテラス席で適当に頼んだ料理が届くと同時に見知らぬ男が前の席に腰を掛けた。
「やぁ、景気はどうですか」
会話をする気分ではないので答えずに酒に手を伸ばすと男は通りがかったウェイターに酒を頼んだ。
「ひとりで飲むのは味気ないでしょう」
やがて届いた酒を手元の樽に無理やりかち合わせて乾杯をした男は勝手気ままにべらべらと喋りだした。
「街を騒がせている連続殺人犯の話を知ってます?
切り裂きジャックの再来なんて雑誌なんかには書かれてますが、なんとも鮮やかな手口ですよねぇ」
食事をするところで話題にするには適さないにも関わらず男は嬉々として話し続けた。テラス席にいた他の客が一斉に離れていく。
「さっきも二つ隣の通りに警察が群がってたんで話を聞いてみればなんとまた同じ手口の犯行ときたもんだ!まさかの遭遇ですよ!俺はなんてツイてるんだろうと思いましたね!」
あらかた食事は食べ終わった。現場には野次馬たちも集まり始めている頃だろう。
「……二つ隣の通りの被害者は死んだのか?」
「え?えぇ、警察が言ってました。酷いやられ方だって」
「じゃあ、今日はもう打ち止めだ」
立ち上がって小銭をテーブルに投げてやる。跳ねる小銭を男は慌てて右手で押さえた。男の脇に周って口元を押さえ、その右手に“仕事”にも使った汚れたナイフを突き立てる。
「次は相手を見て酒をたかるといい」
首ごと頷いた様子を確認したので振り返らずに店をあとにする。飲み直したい気分だったが警察の数が増えてきたのでそうもいかなかった。

3/6/2024, 3:27:27 AM