猫丸

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「もうすぐでクリスマスだね」

「そうだな」

 はあ、と息を吐けば白く色づく。
 街なんかは明るく照らされ浮かれている。

 だというのに隣を歩く少女は憂欝な表情を浮かべていた。

「ねえ……いやごめん、何でもない」

 なんだろう。やっぱり変だ。いつもおどおどしてはいるが、それでもちゃんと口にはしてた。

「どうしたんだ?」

 仕方がないから俺が聞くことに。
 すると彼女はだいぶ躊躇った末に口を開いた。

「……怜はクリスマス予定ある?」

 まさかのお誘いだった。
 予想外なことすぎて驚きが隠せない。表にはきっと出ていないだろうけど。

 というのも、俺は感情を表す機能を忘れてしまっている。
 隣の奴のせいでな。ま、恨んではない。この件についてはもうとっくの前に解決した。
 ただコイツが未だに罪悪感を持ち続けているだけ。

んで、まあそんな彼女からクリスマスデートのお誘いを受けたわけだが、どういうつもりだろう。
 
コイツが俺に恋心を抱いてるなんてことはない。
 なら、おそらく同情。
 クリぼっちの俺を憐れんで、そして罪悪感を晴らすため。
 ま、そんなとこか。

「ごめん。その日はもう予定があるんだ」

 これは本当だった。その日はすでにデートの約束が入っていた。
 仮にそれが入っていなければ彼女の誘いに乗っていただろう。

「……え、だ、だれ?」

 彼女にとってそれは予想外だったのか目を丸くしていた。

「関係あるか?」

「……っ、ご、ごめんなさい。関係ないです」

 ……別にそういうつもりで言ったんじゃないんだけどな。こういうときは感情を表に出せなくて困る。
 こうして微妙な空気のなか俺と彼女は帰路についた。

 俺と彼女の関係。
 元・いじめられっ子と元・いじめっ子。
 今は分からない。

 お互い高校一年生。
 俺は、誰もいないとこを選んだつもりだったが同じ教室に彼女がいた。

 彼女も驚いていたから追いかけて来たわけではなさそう。

 彼女と偶然の再会を果たしてから話すまではすぐだった。

 俺と彼女は教室で浮いていた。
 みんなが誰かしらと仲良くする中、お互い誰とも接しようとせずボッチだったから。

 そして、同じ地元のため帰り道が同じで帰りが一緒になることが多かったから。

 俺たちは次第に一緒に帰るようになった。
 彼女のことは許した。恨んでもないし嫌いでもない。好きでもないが。
 だから友達ではない。いわば隣人。
 それ以上もそれ以下でもない。


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 クリスマス当日。

「ごめんなさい!お待たせしました!」

 待ち合わせ場所に予定より少し遅れて走ってきたのは今日俺をデートに誘った張本人。
 長い黒髪をハーフアップに結び薄くお化粧し、さらにおしゃれまでしてきた彼女はそこら辺を歩く男の視線を集めていた。

「いえ、俺もちょうど着いたとこです」

 その言葉に少し安心して、彼女は優しく微笑んだ。

「行こっか」

「はい」

 こうして、静かに俺と先輩とのデートは始まった。


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 夕食を終えてイルミネーションを一通り見れば解散の時間。

「今日はありがとう。楽しかった」

 この時間ですっかり緊張がほぐれたようで綺麗な笑顔を見せてくれる先輩。

「こちらこそありがとうございます。とても楽しかったです」

「本当かな?怜くんずっと表情変わらないから楽しくないのかと。でも楽しんでくれたのならよかった」

 ほっとした表情をする先輩に俺もほっとする。
 誤解は生んでなさそうだ。

「ね、よかったらさ、またデートしてくれる?」

 ドキッとした。

「お、俺なんかでよければまた」

「あ、いま絶対照れてるでしょ~」

 先輩にニヤニヤされながら指摘される。
 今度は違う意味でドキッとした。
 感情が表に出た?

 い、いやそんなまさか。

 で、でももしそうだとすれば……っ

 俺は面白おかしく、そんなことないですよ!やめてくださいよー、と言った。

「そんなことないですよ。やめてくださいよ」

「あ……う、うん、ご、ごめんね?」

「…………」

「……あ、じゃ、じゃあ私もう帰るね!今日は楽しかったよ、またね!」

「は、はい。お気をつけて」

 少しだけ微妙な空気になってデートは終わった。
 俺は独りになってもその場に立ち尽くしたままだった。


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 なにを、してんだろ。

 私にそんな資格はない。

 彼から表情を奪ったのは私。

 そんな私が一丁前に涙を流していいわけがない。

 ほんとなにしてんだろ。

 勝手にデート尾行して、良い感じの雰囲気に嫉妬して涙しそうになった。

 そしていまは、私が表情を奪ったせいで最悪な形でデートが終わりその罪悪感に涙しそうになっている。

 やめて。引っ込んでっ。

 一番涙をしたいのは、怜だろ!

 さっき彼は期待してた。表情が出せるんじゃないかって。

 でも、結局あんなかんじになっちゃった。

 全部私のせい。

 命絶つことで彼の表情が戻るのなら喜んでナイフを自分の胸に突き立てる。

 でも、私は許されてしまった。

 その事実が罪悪感をさらに大きくする。

 ねえ、私の顔はなんでまだ泣きそうになってるの?

 怜にあげてよ。

 泣きたくても泣けずに苦しんでる彼に。


 【泣かないよ】

3/17/2026, 6:43:31 PM