また明日(恋愛成就は突然に)
冬の部活終わりは夕暮れを越えて、辺りは既に暗闇に包まれている。
寒い寒いと凍える掌に息を吹きかけながら、わたしはちらりと隣に視線を向けた。
「何よ、至ってヘーキですみたいな顔して」
「………んなこと言ってねーだろ。さみーよ俺だって」
………。何だか今日は朝から変。
いつもなら饒舌に絡んでくるくせに、何を寡黙を気取っているんだか。
「なーに、どうかしたの? 悩みがあるなら聞いてあげるわよ、一応ね」
「………。俺今日おかしかったか?」
「だいぶね」
「わかるのかよ。さすがだな、幼馴染み」
幼馴染み………だけでわかるもんですか。この万年鈍感男。
当てつけに何かグサリと刺さる言葉でも投げつけてやろうかと思ったが、予想以上に思い詰めて見えた横顔にそれは仕方なく封印した。
「………もうすぐ卒業だろ」
「あーうん。三年間、あっという間だったわねー」
「俺ら進路も違うし」
ん?
「きっと思うように会えなくなる」
んん?
―――流れた沈黙に、歩みを止める。
「あのさ」
「また明日!」
へっ?
突然駆け出した彼女の後ろ姿に彼が慌てて手を伸ばす。
けれどそれは悲しいかな寸前で宙を掴む形になった。
「おっ、お前なぁ! ここで逃げるやつがあるかよ!」
「だって!」
だって………
「嬉しすぎて心臓破裂しそう!」
………………………。
あのなぁ。とりあえず最後まで言わせてくれてもよくね?
次第に闇に紛れて見えなくなっていく彼女に、いやでもそれって………と彼ははたと我に返る。
「………マジか」
―――どうにも止まらないにやける口元に手を当てて、彼は落ち着けと自分に言い聞かす。
明日もう一度ここで言おう。
頭の中で何百回とシュミレーションした、俺のありったけの思いの丈を。
そう、明日。
また、明日。
END.
5/22/2024, 3:04:14 PM