無音

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【131,お題:逆さま】

まるで上下逆さまで宙に浮かんでいるような、そんな感覚

じっとりと汗をかいた手のひらが気持ち悪い
頭の方にだけ集中して血が集まるから、ズンと重くなって吐き気がした

いつまでこれは続くんだろう...


...ピッ、ピーーーーッ

「もう終わりだぞー...って、誰か吉野が降りるの手伝ってやれー」

「わっ!寧音ちゃん大丈夫?」

先生の笛の音がなって、みんなそれぞれの位置に戻っていく
そんな中私は鉄棒に足をかけたまま、逆さまの姿勢で固まっていた

「大丈夫っすか吉野サン?」

「これが大丈夫に見えるなら、お前は今すぐ眼科に行った方がいい」

「寧音ちゃんは運動苦手だもんね~苦手なものは仕方ないよ」

足離していいよ~と言われ、親友の葵依に体重支えてもらいながゆっくりと鉄棒から降りる
なんとなく葵依の支え方が上手くなって来ているのが腑に落ちない

「登ったはいいが降りれない、なんて何だか猫みたいっすね」

長い間鉄棒にぶら下がったままだったので、痺れた足を引き摺りながら歩いていると
猫宮がそんなことを横から茶化してくる、実際に名字が猫であるお前に言われたくない

「お前ら早く並べー」

「「すいませーん」」

列の一番後ろに3人で固まって並ぶ、この様子だと次は短距離走か、気が重い
先生のスタート合図で、前の運動神経のいい男子達が疾風のごとく駆け出すのが見えた
あれだけ早く走れたら気持ちいいのだろうか?、なんてことをふと考える

「ねぇねぇ、今日学校終わったらカフェ行かない?」

「カフェ?近場にそんなのあった?」

「ふっふっふ、実は最近新しく出来たんだって~、あっ猫宮くんも行こうよ」

そいつは誘わなくてもいいだろ、どうせ勝手に着いてくるし
なになに?何の話しっすか~?と、近付いてきた猫宮に同じ内容を話す葵依を見て
なんとなくこの日常感溢れる光景に頬が緩んだ

「えっ俺も行っていいの?」

「もちろん!寧音ちゃんも良いって」

しれっと了承したことになっているのは置いといて
下らない日常ってこういう事なのかな、とふと思う

もう少しこの光景を見ていたい、いまはその欲に従うことにした



...そのお喋りが熱中しすぎたせいで、この後先生からの怒声が飛んだのは言うまでもない。

12/6/2023, 1:35:42 PM