せつか

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「永遠なんて、君にはなんの価値も無いのだろうけれど」
そう言った彼の目は、ここではないどこか遠くを見ているようだった。
「それでも求めたくなってしまうものなんだよ」

白い髪、白い服。
白ずくめの彼の手の中で、その濃く鮮やかな紫だけがやたら鮮烈に私の目に飛び込んでくる。
「美しいものを美しいまま、ずっとそばに置きたくなる感情は君にも理解出来るだろう?」
私は無言で頷くが、そんな事は出来るはずがないとも心の内では思っている。
「夢物語だと分かっていても人がそれを願ってしまうのは·····、思い出せなくなることが怖いから、なのかもしれないね」
彼は覚えているのだろう。
かつて美しかったものの全てを。
失われ、忘れられてしまったものたちの在りし日の姿を。もういない人々の、目には見えない感情の不変と流転を。

「私はずっと見ていたよ。そしてこれからも·····ずっと見ている」
その言葉に微かな寂寥を感じたのは気のせいだろうか。
「永遠なんて、たしかに退屈極まりないけれど」
彼の手の中で紫色の花びらがくしゃりと音を立てる。
「時間だけは売るほどあるから」
その小さな花束は、何も言わずにただじっと彼の言葉に耳を傾けるように上を向いていた。


END


「永遠の花束」

2/4/2025, 3:13:36 PM