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 花粉症だと認めたら、花粉症になる。だから私は花粉症にはならない。
 かつては認めたら負けくらいに思っていた。
 たとえ水っぽい鼻水が出ても、花粉症?と訊かれると食い気味に「違います」と答えた。
 このように謎の意地を張る人は自分だけでなく、意外と存在するらしい。

 よくアレルギーはコップの水にたとえられる。
 軽くだが鼻の症状が出ていたということは、既にコップはいっぱいに満たされ、滴は一筋、二筋と流れ落ちていたのだろう。
 ある年の春先、水は突如としてどばどばと溢れだした。噴水のような勢いで。
 最もきたのは目。かゆい。こする。悶絶する。真っ赤になる白目。とにかくかゆい。

 耐えかねてクリニックへ行くと、医師は診察が始まるなり言った。「まだ検査はしていないけど、これは花粉症ですねぇ」
 私は悄然として敗北を受け入れ、その日から花粉症になった。


『現実逃避』

2/28/2024, 4:17:12 AM