かしわ文

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 いつだってあの子に目を奪われていた。
 大学に進学してから知り合った彼女は、明るくて、よく笑って、甘いものが大好きで、大勢の中心にいるわけじゃないけど仲の良い子たちと一緒に小さくはしゃぐような、そんな、思わずかわいいなと思ってしまう子だった。
 だから堪らず、声を掛けてしまう。おはようとか、おつかれとか、またねとか、そんな些細なことだけど。
 すると彼女は柔らかな頬を弾ませて、おはようとか、おつかれとか、またねとか、同じように返してくれる。明るい仕草に思わず笑みが深まった。
 僕の想いは伝えてはいけないものだとわかっているから、明確な言葉にはしないけれど。それでも特別な彼女にせめて好意だけでも伝えたくて。

 ある日、彼女の肩につくくらいの黒髪が、ミルクティのような甘い色合いに変化した。友達に絶対似合うよと勧められて挑戦したらしい。友人たちの見立ては確かで、とても彼女に似合っていた。
 しっとりとした黒髪だってもちろん彼女を魅力的に見せていたけど、明るく軽やかな髪色は彼女の柔らかさを強調していて、とても……とても、素敵だった。
 あまりに不躾に見つめていたから、彼女の友達に可愛すぎて見とれてたでしょとからかわれる。当然と言わんばかりに可愛い、よく似合ってると肯定したら、彼女の白い肌が見る見るうちに紅潮した。思わず喉が鳴ってしまいそうになる。
 ああ、だめだとわかっているのに。僕の気持ちを、きみにそっと伝えたい。
「                  」

 そうしたらきみは、僕を怯えた瞳で見るだろうか。

2/14/2025, 9:11:48 AM