帰燕[Kien]

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作品No.33【2024/05/03 テーマ:二人だけの秘密】


 昔の手紙達が、机の引出しから出てきた。かわいらしい、色合いや、動物や、キャラクターなんかのメモに、書かれて折られた手紙達だ。それらを、私は、読むことはおろか、開くこともせずに、紙袋にぶち込んで、その紙袋をゴミ袋に突っ込んだ。
 よくある、十代の学生特有の、授業中の手紙の交換を、私もしていた時代があった。私以外と口を利かない幼馴染みと、二人だけの手紙のやり取りだった。あの頃は、それが楽しかったのだと、思う。
 でももう、要らない。
 あいつのことは、思い出したくもない。私の中では黒歴史だ。
 十年以上経って、やっと切れた縁を、今さら蒸し返したくはない。
 思い出したくないのならば、記憶から少しでも消したいのならば、あらためて記憶する前に、忘れている今のうちに、自分の中から消し去ってしまうのがいい。
 あの頃、輝いているように見えた二人だけの秘密は、もう要らない。

5/3/2024, 2:14:33 PM