ストック1

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「美しい」

ひとりの男性が、僕の作品を見てそう言った
僕は嫌な気分になった
彼はいったい何を美しいと感じたのか
僕の作品は出来が悪く、お世辞にも上手いとは言えない
なのに、僕の父が高名な芸術家だからと、まるで僕も才能があるかのように周りが持て囃し、個展まで開いて今に至る
僕は作品作りが好きだ
だからといって、七光で評価されるのは嫌だ
それは僕への評価ではなく、父への評価だから
そして、好きだからこそ、自分の実力が個展なんかを開くに値するものではないとわかる
断ればよかったのだろうけど、言い訳に聞こえるかもしれないが、押しに弱く、了承してしまったのだ
みんなの目当ては僕じゃなく父の名声
きっとあの人も、父の才能を見て、無理やり僕の作品を評価したのだろう

「さすがは、かの六畑現之助のご子息
実力がとても高い
溢れんばかりの才能を感じますね」

周りの人もそんなことを言っている
本気で言ってるのか?
僕の作品に対して?
おかしいと思っても同調圧力を感じて言えないか、本当に見る目がないか、どっちかなんじゃないか?
しかし、美しいと言った男性が次に呟いた一言に、僕は驚いた

「いや、別に才能は感じないし、ハッキリ言って未熟だよ」

「え?
いや、しかし、これは六畑さんのご子息の作品で」

「六畑さんが優れた作家なのは知っている
だが、それとご子息の才能は関係ないよ」

「し、しかし、桜地さんも美しいと言っていたではありませんか」

僕は面白くてニヤニヤしてしまった
桜地さんと呼ばれた人がさっき美しいと言った真意はわからないが、知ったかぶっていた周りの人が、僕の才能を否定されて狼狽えるさまは笑える
そうだよ、桜地さんの感想が本来の僕が受けるべき評価なんだよ
しかしその後、桜地さんは思いもよらないことを話し始めた

「ああ、僕が美しいと言ったのは、作品が上手いってことじゃないんだ
たしかに未熟だけど、全ての作品の端々に真剣に努力したあとが伺える
一度大きく評価された人は、自分のスタイルに縛られて、保守的な作品になったりもするんだけど、これは自分を高めるための挑戦を感じるよ
この作者は、作品を作ることを本気で楽しんでるんじゃないかな?
こうして作品に向き合う心はとても美しいと思うし、幸せなことだよ
今は未熟でも、その気持ちを持ち続けていれば、才能も開花するかもね
僕も、初心を思い出せた
来てよかったよ」

周りの人は呆然としている
僕も、呆然となった
この人の言葉は、僕の心に強烈な衝撃をもたらした
そうだよな
上手くなくても、プロになれなくても、自分が好きで楽しんでいられれば、幸せなんだ
僕は、僕の好きなように作品作りを楽しんで、自分を高めていこうと改めて思えた
桜地さんには感謝だ

あとで知らされたけど、桜地さんは別の名前で活動している超有名な人だった
名前を聞いて卒倒するかと思ったほどのレベルだ

1/16/2026, 12:00:44 PM