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『ぬくもりの記憶』

​世界から光が失われ、人々が石化し始めた時、国一番の魔術師がこう言った。

「一番温かい記憶を、小さなガラス瓶に詰め、聖魔の森に埋めるのです」

国王は国中にお触れを出し、人々は皆、自分たちが思い出せるだけすべての温かい記憶を瓶に詰めた。

老人から子供まで、その瓶を手に聖魔の森に向かった。瓶の中の記憶について、各々が楽しそうに懐かしそうに語らいながら。

森に着き、瓶を埋めながら人々は思った。

いくつもの不満や嫌な出来事もあったけれど、そればっかりの人生じゃなかった。

瓶に詰めた温かい記憶は、人々の石化を止めるものではなかった。
あらゆる文献を調べても、逃れる術は見つけられなかったのだ。

それならせめて、恐怖や悔恨から人々を遠ざけようと、国王と魔術師はお触れを出した。

やがて人々が石になり、国から人間が消えると、聖魔の森からこんな声が国全体に響き渡った。

《賢き魔術師よ、民思う王よ、そなたらの願いを聞き届けん》

それと同時に埋められていた無数の瓶が、元の持ち主に返され、石となった体を温め、やがて――

12/11/2025, 9:48:44 AM