かたいなか

Open App

「7月の、6日頃に『友だちの思い出』、25日あたりに『友情』が、それぞれお題だったわ」
双方ストレートに、親友同士の思い出ネタ書いたり、相手に手を差し伸べる友情ネタ書いたりしたが、今度は単刀直入に「友達」か。
某所在住物書きは今日も途方に暮れた。ぼっちがそうそうポイポイ何度も、友達ネタを出せるだろう。

「友達とのケンカネタは?」
ひとつ案を閃き、過去投稿分を辿る。
「あっ。書いてる。バチクソにダラダラな口喧嘩させてるし二番煎じも終わってる」
他に、何を書けと。物書きは今日もため息を吐く。

――――――

最近最近の都内某所、某稲荷神社の近所にある、茶葉屋のカフェスペース。
同じ職場の親友2人が、片やキリリと辛口の日本酒、片や優しい甘さの緑茶を飲みながら、小鉢料理の約十品を突っついている。

「『行かないで』、だとさ」
穏やかなため息を吐いたのは、緑茶とウナギの蒲焼き小鉢を楽しんでいた方。
名前を藤森という。
諸事情により今月いっぱいで退職し、東京を離れて故郷の田舎に引っ込む予定だったところを、退職届提出前に、職場の後輩になぜかバレた。
「職場に面倒振り撒いてるのは、私ではなく『あのひと』だから、私が責任を感じて田舎に引っ込む必要など無い、と」

諸事情とはすなわち、藤森の抱える恋愛トラブルである。縁切った筈の初恋相手が、運悪く執念深かった。
先々月から先月にかけて、何度も何度も藤森の職場に押し掛け、「会わせて」、「話をさせて」。
あまりの来店頻度と面倒っぷりに、出禁宣告さえ為された。

「東京に残って、また低糖質飯作って、とも言われた。……そっちが本心だろうな。正直なやつだよ」
そんなことが、先日あってだな。
藤森は呟いて、またウナギの小鉢を突っついた。
「にしても、なぜ私の退職予定がバレたのだろう」

「そりゃバレるだろう」
軟骨唐揚げの塩レモン仕立てで酒を飲むのは、藤森の親友であるところの宇曽野。
「あいつ、お前と何年仕事してると思ってる。おまけにお前自身、クソ真面目の正直者ときた」
気付かない方がおかしいんだよ。
付け足す宇曽野は、すべてが想定内の様子。
ため息を吐き、藤森を見て、片眉だけ吊り上げた。

「あのひとにはバレなかった」
「あ?」
「加元さんには。例の、私の初恋相手には」
「あいつはお前のことなんざ、ハナから見てなかったんだよ。ただ理想のアクセサリーを身に着けてる『自分』に酔ってただけだ」

「『理想のアクセサリー』、」
「と、思ったら、よくよく付き合ってみればお前は『お前』だった。加元の理想から離れてたから、『解釈違い』だったのさ」

「お前」のことを、見てなかったんだ。
宇曽野は繰り返し、タブレットで軟骨唐揚げの追加を2皿注文する。
レモンの酸味が好ましかったらしい。スライスされた一切れをつまみ、閃いて酒に果汁を一滴、二滴。

「加元さんと違って、あの後輩は、『自分』ではなく『私』を見ているとでも?」
宇曽野からタブレットを取り上げ、追加の2皿を3皿に変更した藤森に、
「……少なくともお前『の手料理』は、確実に見てるし、食ってるし、胃袋掴まれてるだろ」
宇曽野は確実な事実を提示して、ウナギ小鉢を藤森から引ったくった。

「あっ。おまえ、他にも料理あるだろう」
「唐突にウナギ食いたくなった」
「なら頼めよ。自分で……」

10/25/2023, 2:13:27 PM