その日初めて、空が泣くのを見た。
15歳上の姉が若い男と消えた。
5歳の息子、空(そら)を家に残したまま、突然帰ってこなくなったらしい。
姉は昔から、自らの行動に責任を持つということがなかった。
両親は、私より姉を愛した。
私は高校卒業と同時に家を出て、働いた。
空が私の部屋を訪ねてきたのは、私が二十歳の時だった。
私は子供が嫌いだった。
ひとまず私は、空が不潔だったので風呂に入れ、腹をすかせているようだったので食事をさせた。
姉の一番の被害者は、時折笑顔すら見せていたが、常に私の顔色をうかがっていた。
なりゆきで、私は空と一緒に暮らすことになった。
空の母親になる気はなかった。
夜に子供を一人にしておけないので、夜勤はできなくなった。
給料は減ったが、出費は増えた。
生活は苦しかったが、空には言えなかった。
お互い2人の生活にも慣れてきた頃。
仕事を早上がりさせてもらえたので、その日はいつもより早い時間に家に帰った。
その日初めて、空が泣くのを見た。
私に隠れて。
声もたてず静かに泣いていた。
私は空の母親になろうと思った。
「あんたさぁ」
「泣くならもっと子供らしく泣いたら?」
「あと明日は仕事サボるから。あんたもつきあえ。」
(空が泣く)
9/17/2024, 7:32:48 AM