愛情
────ガタンゴトン…ガタンゴトン…
大きく揺れながら移動する列車の中。
風が冷たく空は灰色をしていた。
あぁ、思い出してしまう。
一年前の今日の出来事を───
今日は君の誕生日だ。
仕事を早めに終わらせて今まで
ゆっくり出来なかった分お祝いをしようと
ワクワクしながら家の鍵を開ける。
誕生日プレゼントを隠そうと
周りを見回した時、机に何かが置いてあることに
気づいた僕は訳が分からずに慌てた。
「もう一緒に居られない」
と置き手紙と婚約指輪が置いてあったのだ。
お互い仕事ですれ違いを繰り返して
幸せを感じることも少なくなったけれど
こんな終わり方は嫌だと
雨の中、足掻くように君を探した。
嫌だよ…戻ってきてくれ…
願っても君は何処にも見つからなかった。
〇〇駅 〇〇駅 お降りの際は────
目的地に着いた僕は手紙を取り出す。
明るい空色に淡い桃色のコスモスの封筒に
何度も書き直した跡が残ってる手紙用紙。
そこには今、君が住んでいる場所や
一年前の出来事についての謝罪が
書かれていた。
僕は直接会って話し合いをしようと
君の居る街に向かった。
けれど緊張もするし、やっぱり辞めようと思うし
まだ君が好きなんだという気持ちが混ざって胸が締め付ける。
この街は君が好きだった花や
付き合っていた頃によく食べていた料理。
君の好きなものがあちらこちらに詰まっていて
歩く度に彼女を思い出させるようで…
落ち着こうと近くにあったカフェに寄り
君と一緒に飲んでいた珈琲を注文した。
スケサ…ンデミテ…
後ろの席から話し声が聞こえる。
こっそり聞き耳立てみると、
「祐介さん!これ美味しいわよ、飲んでみてっ!」
「これこれ、紗良ちゃん、声が大きいよぉ~笑」
聞き覚えのある声、はしゃいでるような話し方も
信じたくなかったけれど
あの日の…置き手紙の理由が分かった。
珈琲が届いては急いで飲みその場を去った僕は
涙と共に変わらない君への愛を想う。
そうか…君は幸せなんだね、
もう僕は必要無い、
僕は君が幸せならそれでいい。
美味しかったはずの珈琲は
今はただ苦いだけ…
「今までありがとう、お幸せに」
11/27/2023, 11:43:10 AM