#君と一緒に
君と一緒に渡る運河は美しかろう
君と食む空気はふわりと香る綿飴で
舌で溶けてしまうのが惜しい
けれど此処はボートの上だから
君と私で鼻先を擦り合わせ
微笑むだけで楽しくて
「あ。」
うっかり顔を近付けてしまった
口付けを強請る様に君の顔を覗き込んで
あと一寸と言うところで
冷たい風が頬を張る
「ダメですよ。そう言うことは家に帰ってから」
「すまない、」
慌てて格好を正す私のネクタイを
君が指先で締めてくれる
「帰ったら幾らでも、良いですから」
消え入りそうな小さな声でそう言うので
私はせっかく整えた格好が
またしだり、と崩れるのが分かった
美しい運河は目にも入らず
この寒空のボートで
只、君ばかり見ていた
1/6/2024, 4:02:49 PM