のねむ

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「また、来世で」と愛言葉を口にした。
これはきっと、私達だけの合言葉でもある。二度と会うことは出来ないと、それを理解した上で吐き出した言葉。


笹貫ほたる。黒髪ロングの姫カット。圧倒的な女子力。屈託のない笑顔。それが、彼女を表す代名詞。
どこかの、低くも高くもない、けれど夜の暗い気持ちの中で聞くと、心地よく聞こえる声で愛とか恋とか、タバコとか性行為とかの定番化したエモい歌のPVとかで出てそうで、それもまた彼女の魅力だと思った。

そんな彼女と私、川神ぱんだが仲良くなったきっかけなんて、ほんとに、単純で、だけど意味不明な事だった。





「川神ぱんだって凄い名前だねぇ」

中学の入学式が終わった後。いきなり後ろから声をかけられた。
ヒラヒラと薄ピンクの桜と並んで、黒い髪の毛が空中を泳いでいる。そっと髪の毛を辿っていくと、白く小さな顔が目に入った。あ、

「笹貫ほたる」

入学式の時にかなり話題になった女の子。すらっとした手足に、綺麗な顔が乗っていて、それでいて成績優秀。神様が人一倍手間隙かけて造り上げた完璧な美少女、だと。

「あは、私の名前知ってるんだ? 」
「そりゃあ、貴女自分が思ってるよりも有名人だからね」
「ふぅん。ま、確かに」

にこにこ、屈託のない笑顔でずっと話しているその顔をじっと見つめる。疲れないのだろうか、ずっと笑顔でいるのは。それとも、やはり、神様が心込めて造り上げたら、そんな疲労は感じないのだろうか。気になる。
じっと見つめられていることに今更気付いたようで、少し居心地が悪そうな顔に変わる。

「えへ、そんなに見つめられると少し、困るなぁ」
頬を桜色に染めて、目を横に流す。その姿だけでも、十分にどこかの映画のワンシーンのように見えた。
きっと、私はただの通行人Bなのだから、勝手に映画なんて始めないで欲しい。

「ごめん。それで、なにか私に用?」

目の前の少女は、あぁ、忘れてた! とでも言いたげな表情をして、手をポンと打つ。

「私と仲良くならない? ほら、私は笹、貴女はぱんだ。それに、貴女は川、私はほたる。ね? 仲良くなるしかなさそうじゃない? 」

名案だ! と副音声が付いてきそうな表情に変わる。それと同時に私の表情も無に帰る。
くるくるころころと変わる表情は、私には対応していないのだから、もう少し落ち着かせて欲しい。と切実に思った。



これが、私達の出会いだ。
神様はきっと、必死に造り上げた事に満足して、笹貫ほたるの大事な頭のネジを二本くらい入れ忘れたんだと本気で思ってしまった。





そんな、意味不明な出会いから始まった私たちの関係は、何やかんやと続いてしまって、もうすぐ25歳を迎えようとしている。
仲良くなるしかなさそう、だなんて飛んだ口説き文句だったのに、それに絆されてずっと一緒にいたのだから、私も大概ほたるに甘いのだろう。
その事実は、あまり受け入れたくは無いし、ほたる自身にも打ち明けたくは無いが、頭の良いほたるの事だ。気付いて、にこにこと笑って、またいつも通り隣に立つのだろう。

あぁ、腹が立つ。この心地良さが。
私達は、永遠にはいられない。永遠の好きも、心地良さも、存在しないのだ。


「好きだよ」
「私も」

そんな、種類も沢山ある好きの中から、より一層特別で重たい好きを選んだ私達に存在しうる未来はそう明るくは無い。
初めから、分かっていた訳では無い。
子供の見る世界と、大人になった今見る世界の広さは違う。そらでいて、世界が私達の持つ、特別で重たい好きに対してどれだけ厳しいのかも、今となっては手で、足で、耳で、目で、全てで取るように分かる。




だから、私は笹貫ほたるの為に。
笹貫ほたるは、私の為に、別れを決めた。

川に揺蕩うほたるは、いつか消える。
笹を食べて生きるぱんだも、いつかは滅びる。

そういう世の理なのだ、形あるものはいつか消える。それが、ただ今だっただけなのだ。なのに、何故こんなにも胸が締め付けられるのだろう。
出会う日が違ったら、もっと世界が先に進んでいたら、名前が違ったら、そう何度も願ったけれど、でも出会わなかった方が良いとは思わなかった。性別が違えばいいとも、一度だって思わなかった。私達は、私達だから、出会えたんだって思うから。


「あぁ、ぱんだ。泣かないで」

今も変わらない屈託のない笑顔を見せるほたる。
黒髪ロングの姫カットは、いつからか、年齢が……とかなんとか言って伸ばし始めた。
変わらない事は、勿論あったけれど、変わったことの方が多かったと思う。
例えば、白いドレスに身を包むほたるの、左手の薬指にきらきらと光る指輪とかね。

過去の私達は、もうすぐ消える。
笑って、お別れを迎えることが出来るのならば、これは良い失恋なのじゃないだろうか。

「幸せになるんだよ、ほたる」

「……うん。はは、もう、ぱんだの為の笹は無くなっちゃっうんだ」

眉尻を下げるその姿も、まさに神様が人一倍手間隙かけて造り上げた完璧そのものだ。しかし、もう美少女と言える年齢では無いから、そうだな。美女、だろうか。
そんな美女、ほたるの苗字から笹貫が消える。私達にあったギリギリの繋がりは、もう儚いものになってしまっていた。
私の苗字も、そろそろ変わる。そうすれば、完全に私達は断ち切られる。

「仕方がないよ。でも、ほらね。また来世に期待しよう」

こんなにも愛を込めて造り上げたのだから、ほたるの願いなんて神様は、たった一言で承諾してしまうだろう。
ただ、それだけの望みに賭ける。



そんな、たった二人の愛言葉だ。








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幸せなんて、当人達だけの間で共通認識として存在してたら、それでいいんじゃないかなと思います。
湊かなえさんの少女という小説の中の、おっさんに恋をしてました、こんばんは。
久しぶりに覗いて見ました。
あまりにも、文才力が何処かに旅立ったまま帰ってこないので、諦めが勝ちそうです。

そう、友達が浮気性で脅迫しまくりの彼女と別れたと言っていた数週間後によりを戻してました。失望しました。普通に。
幸せがどうのこうの言っていた私が、素早い手のひら返しをして申し訳ないですけど。
でも私と友達との幸せの共通認識は、一体どこなんだろうと、ちょっと考え直しましたね。
都合のいい時に、都合のいい話が出来る、だとしたら、まあ面白いですね。
別れた時に、もう恋愛はいいとか、もうきっぱり終わりにすると調子のいいことを言っていたのに。と、少しだけモヤってしましたけど、まあもう幸せなら良いや〜と思うことにしました。その分、不幸になっても思う存分笑ってやろうとも。

私も不幸になればなるほどどこかの誰かに笑われてるんでしょうか。その人が幸せならいいんですけど別に。

今思ったんですけど、友達に失望って何にしたんでしょう。特に期待なんてしてないんですけどね。
あぁ、友達が以前恋愛とかわかんないと言っていたからでしょうか。
分からない癖に、ズブズブに周りが見えなくなるほど依存してしまう。やはり、恋は盲目。そして、愛は1番の身勝手。

でも、恋する人を美しいと思うし、愛して愛されてを見ると羨ましいとも思う。
幸せなら、ほんと、それでいい。
愛程、身勝手で自由になれるものなんてありませんから。

好きな人を好きなままで、世間が私達や皆に追いつくまで、色んな感情に飲み込まれるかもしれませんが、それでも、好きでいてくれたらいいなと、思います。

10/26/2023, 10:53:45 AM