作家志望の高校生

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昔から君は泣き虫だった。転んで泣いて、いじめられて泣いて、果てには上手く折り紙が折れなかっただけで泣いていた。君以上の泣き虫を、僕は知らない。
それが、保育園の頃。小学生に上がると、君は声を上げては泣かなくなった。相変わらず泣き虫だったけど、押し殺したような声で泣いていた。中学生になる頃には、学校ではあまり泣かなくなった。それでも月に一回は泣いていたけど。
そして、高校生。君はすっかり強くなって、もう人前ではほとんど泣かなかった。本当は祝うべきことなのだろう。保育園からずっと一緒だった君が、少しずつ成長しているんだから。でも、僕は素直に祝えなかった。確実に変わっていく君が、弱さを失っていくのが寂しくてたまらなかった。僕はもう泣いている君を慰めることもできないのかと、今度はこっちが泣きそうになった。
高校に入学して2年。僕の生活は一変した。机の中に入れられたゴミ、汚された上履き、無くなる教科書。典型的ないじめだった。君は僕の異変になんとなく気付いていたらしかったけど、僕は全力で隠した。こんなこと君が知ったら、泣き虫な君はきっとまた泣いてしまうから。
けれど、結局バレた。一緒に登校して、靴箱を開けた瞬間紙くずが流れ出てきたから。なんとも手の込んだいじめで、ゴミと一緒に詰められた紙くずには、わざわざ僕への罵詈雑言が書かれていた。
「……ねぇ、これ何?なんでこんなことなってんの?」
初めて聞いた声だった。底冷えするような、本気の怒りが込められた声。あまりに冷たいそれに、僕は背筋を冷や汗が伝うのを感じた。もう誤魔化せない、そう思った。
観念して全部話すと、君は怒ったような、それでいて泣きそうなような、なんとも言えない顔をしていた。だから話したくなかったんだと思いつつ、どうすればいいか分からなくて黙り込んでしまう。君はその沈黙をどう受け取ったのか、突然僕を抱きしめてきた。
「え、あの……ど、どうしたの?」
驚いたせいで言葉が詰まりがちになった僕が問うと、やっぱり我慢できなくて泣き出してしまった君が言った。
「……気付けなかった……お前がこんなになってるのに、俺……」
抱きしめてくる腕の温かさに、僕までつられて泣きそうになった。それでも、堪らえようとしたんだ。
「なんで泣かないんだよ……泣いて、いいんだよ……!」
思いっきり泣きながら、それでも強い意志の籠もった光を失わない瞳で見つめられる。高校生になってから、ほとんど泣かなかった君が泣いている。ああ、これじゃ保育園の頃と立場が逆じゃないか、なんて思うが、じわじわと滲み出す視界は、もう止められそうにない。
堰を切ったように流れ出す涙は、いじめへの悲しみなのか、慰めへの喜びなのか、はたまた別のものか。泣いている僕にさえ、分からなかった。

テーマ:涙の理由

9/27/2025, 7:25:34 PM