道端にコンニャク落ちてた

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テーマ:『タイムマシーン』





 僕のじいちゃんは大陸一の発明家だ。


 どこの家もじいちゃんが発明した機械がおいてあるし、どこの国もじいちゃんが発明した武器や施設を必ずもっている。

 1000年にひとりの天才と言われるじいちゃんだけど、ずっと昔に開発を始めて未だに完成しないものがあるらしい。
 しかもそれが何なのか誰一人として知らないのだ。孫である僕も知らない。

 じいちゃんは小さな島で独り発明に勤しんでいる。別に人と縁を切りたいわけじゃなく、じいちゃんが扱うものの中には危ないものもあるから誰も傷つかないようにそうしているだけ。
 現に今、一段落したから遊びにおいでという手紙が僕に届いている。



 僕は久しぶりにじいちゃんの所にやってきた。
 海で囲まれた小さな孤島。その真ん中に建つのは仰々しい鉄の塔。太い配線がむき出しで、至る所で電灯が瞬いている。塔のてっぺんには巨大な球体が、ぼうっと青い輝きを放っている。

 じいちゃんはいつもこの塔の中にいる。じいちゃんの家だと思っていたのだが、訪れるたびに大きくなっていく様子を見るにこれも発明品のひとつなのだろう。昔はもう少し小さかった。


 「じいちゃーん。遊びに来たー」

 
 塔の中はゴチャゴチャしている。
 なんだか分からない機械やいろんな形の工具に設計図と思われる大きな紙がそこら中にあり、すでに足の踏み場がない床にはいくつもの配線が走っている。

 どうにか奥ヘ進んでいくとじいちゃんを見つけた。
 白い頭髪に黒い瞳。年を感じさせない逞しい身体をボロボロのつなぎで包んでいる。

 じいちゃんもこちらに気づいたようだ。


 「やあ。よく来た」
 
 
 早速、どんな発明ができたのかと訊ねてみる。するとじいちゃんは頭を掻きながら言った。


 
 「実はな、もう発明は終わりにしようと思うんだ」


 
 そう言うと古い紙切れを僕に差し出した。設計図だ。
 何が書いてあるかさっぱり分からないが、周りに散乱している他の設計図と比べてとても精密で複雑なものであることは確かだ。


 「私は、それをつくるために今までやってきたんだ」

 
 古い設計図にその名前が書かれている。
 じいちゃんがつくろうとしたもの。それは―――

 
 「タイムマシーン……」


 時空を操ることができる夢の機械。

 作り話のなかでしか登場しないものだと思っていたのだが、じいちゃんはそれを現実のものにしようとしていたのだ。
 
 しかし―――


 「無駄だった。できるはずがなかったんだ」


 じいちゃんらしくなかった。弱音を吐くことなんてただの一度もなかったのに、やると決めたら完成するまで諦めなかったのに。

 じいちゃんは今までにいくつもの夢の機械を発明してきた。馬なしで動く鉄の馬車や、鳥を模した人が空を飛べる機械など、みんなが不可能と言ったものを諦めずに発明してきた。


 どうして諦めてしまうのか訊ねると、少し間をおいてじいちゃんは言った。


 「そもそも、時間なんてものは存在しないんだ」


 じいちゃん曰く、電気や光は物理的な性質があるのに対し、時間にはそれがないのだという。
 時間の正体は、時の流れを感じたという人間の認識によるものだと。
 
 僕にはよくわからないけど、とにかく時間を思い通りに動かすことが物理的に無理なのだそうだ。


 じいちゃんはこのタイムマシーンをつくるために50年近く研究をしてきたのだそう。しかも、本当は時間が存在しないものだということはかなり前からわかっていていたらしい。

 それでもじいちゃんは諦めなかった。
 研究費用を得るために他の発明品を生み出して研究を続けていたのだ。全てはこのタイムマシーンのために。



 改めて設計図に目を落とすと、完成予定のその姿は塔のように長いシルエットにてっぺんには特徴的な丸いものがある。それには見覚えがあった。


 僕たちが今いるこれが、タイムマシーンなのだ。



 じいちゃんは上を見上げ、こう言い続けた。


 「潮時なんだ。私はもう若くない」


 1000年に一度の天才も、時の流れには逆らえなかった。


 「私は50年間この機械に囚われ続けていた。それももう終わりにしたいのだ」



 時空を操ることができる夢の機械。

 それは、人を夢の中に囚える鉄の檻となっていた。

 

 僕は、じいちゃんの手を引き外ヘ連れ出した。

 一緒にいろんなことをして遊びたい。

 一緒にいろんな所ヘ行きたい。

 
 そう言うと、じいちゃんは嬉しそうな顔をしてくれた。




 背後には、誰もいなくなった鉄の塔が陽射しを反射して、地平線に光を伸ばしていた。


 

 

 
 

1/23/2023, 4:38:00 AM