うみ

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 *加筆しました。


 


 ――大切なものを増やしてはいけない。
  失うことをおそれるようになるから。

 ――一つの物に、人間に、心を傾けてはいけない。
  失えば何も守れないほどの悲しみが訪れるから。

 ――宝物を作ってはいけない。
  それが自らの全てとなってしまうから――。



「……馬鹿馬鹿しいと思うか」

「さあな。そういう考え方もあるだろうな、そう思うんならそれで良いだろ、で終わりだ。生憎実の無い議論に熱を込められるほど人間ができてないもんで」

「私はお前の意見を聞いている」

「じゃあお前の考えは?」

「ある程度正しくてある程度間違いだ、と」

「ふうん」

「貴族として下の者を守らなければならない。それがそう生まれた者の義務だ」

「めんどくせえ生き方」

「面倒な生き方をする人間を選んだのはお前だろう」

「そりゃそこが好きなんだからなあ」

「……お前の意見を聞きたい」

「それを聞いてなんになる?」

「知りたいと思うのは悪いことか」

「いいや」

「ならば教えてくれ」

「んー……全てを守れるほどの力を手に入れろ、が俺の答えかな。守れないから愛するなってのは甘えだ。つうかそもそも、タイセツナモノが守られるだけってのが気に食わねえんだよなあ。それにだって守りたいものはあって、守ろうと必死になるはずだろ」

「……成程、お前らしいな」

「そうかあ?」

「ああ。お前らしくて……世界一好ましい」

「ははっ、そうじゃねえと」


 大切なものを、宝物を守れないなどと誰が決めた。 
 宝物が、守られるだけの存在であると誰が決めた。

 どこの誰かは知らんが見ていろ。私は、私の宝物とともに幸せになる。



 ――大切なものを増やすと良い。
  そのぶんだけ強くなれるから。

 ――誰かひとりに心を傾けたって構わない。
  それは困難の時心の拠り所となるだろう。

 ――宝物を見つけると良い。
  自らの全てを賭けて守ろうとするだろうから──。

 

(宝物)

11/20/2024, 12:59:06 PM