手のひらの宇宙

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【Undertaleの 重大なネタバレ 注意。】
【      ﹌﹌﹌﹌﹌﹌﹌    】


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我々は空と太陽を失い、長らくは、それらの輝きに恋焦がれ、忘れ、それでも憧ればかりは止められず、いたものだ。

だがそれも、歴史の後ろにあった。
きょう、過去となったのである。

「お日様、どんどん下がっていくぞ!?しかもなんだか、天井の色が変わってる〜ッ!」

パピルスは山を走り下りながら、空を見上げて話した。
隣で走るアンダインも、なんだとッ!と空を仰ぎ、ギョッとする。
……魚だけにって?

「こ、これは……チョーゼツセンチメンタルだッ!」
「センチメートル??」
「ちがうッ!センチメンタルってのはな……えー……センチメンタルって、なんだ……?
おいパピルス!センチメンタルってなんだ!」
「しらないよッ」

アンダインは走りながら、パピルスのこめかみをグリグリしだした。「ううっ、やめてよ〜ッ」とパピルスはアンダインから離れようとするが、まだアンダインのほうが力は強いらしく、逃げられない。
ふたりは転びそうになりながらも、楽しそうに走っている。

オレはいま、めちゃくちゃニコニコしてるんだろうな。

「って、アンダインッ!ほらほら、ますます、暗くなってる!」
「……ホントだな……まるで、あそこへ逆戻りしたみたいに……」

さっきまで、木々がオレンジの光に影を落としてたのに、その影はもうそこら中を包んでる。
太陽が沈みかけているのだ。

ふたりは木々の隙間から、太陽を覗きみようとひしめきあいながら、だんだんと、減速していき、スローリーに立ちすくむ。
オレも一緒に立ち止まった。追いついて、ふたりの間に入るのは、少し気が引けるからだ。

ふたりとも、だれも一切話さず、どんどん光のなくなっていく山中のけもの道で突っ立つ。
そういえば、山なのに、全然動物の姿が見当たらない。
だから、必要以上に静かだった。

「ッわ?!」

パンッ、と音が鳴り、オレが驚いて見てみると、どうやら、アンダインがパピルスの背を叩いた音らしかった。
パピルスはそれによろめいてる。
しかし、アンダインはニカッと笑っていて「パピルスッ!やっぱり、みんなと一緒に行こう。きょうおこることは、みんな、はじめてで、トクベツなことなんだからなッ!」
暗く落ち込んだ景色には似つかわしくない、至極真っ当で、前向きな声だった。
それにはパピルスも「じゃあ、先に誰かと合流できた方が勝ちッ!」
それにはパピルスも、感動して、頷くだけかと思ったが、勝負を申し込み、踵を返して元気よく、走り出した。
つまりは、ふたりの背を追っていた、オレの方へ向かってきたのだ……
アンダインも典型的に「ずるいぞ!まてッ!」と叫んで、こっちへ来る。

そのとき、ドッと、後ろからだ。

「う、わ、……ッて、なんだ、アンタか……ビックリさせないでくれ」
「あ、……ヵッ、ハァッ、ちょ、ちょっと、ハアッ、ハアッ、やすませて……」

そのドッの正体は、アルフィーだったらしい。
ゼヒーゼヒーとか言って、オレの肩に手をのせてきてた。オレの背中に体重をかけてくる……あー、重い。

そういや、パピルスはどうなった?
向き直ってみる。

「うオっ……!」

眼前には、パピルスの怪訝な顔があった!

今度こそ、さすがにビビって、肩が大きく揺れてしまった。
ホラー映画の、ビックリシーンでも見たみたいに……
その拍子に、アルフィーが崩れ落ちた。もはや、肩にはりつく体力すら残ってないらしい。

「あー、ホント、みんなオイラをビビらせるのがすきだな……」
「ナニいってんの!それは兄ちゃんでしょッ、なんでこんなとこにつったってるの……その後ろにある土ぞうきんは……」
「アッ、アルフィー!?」

追いついてきたアンダインが、さすがに一瞬で気づいて……悪いな、アルフィーは地面に顔面から突っ伏してた。
それをアンダインは軽々抱き上げる。

「アッ、ハァーッ、アンダ……イッゼーッ……」
「あー、博士は、アンタとパピルスを追ってきたらしいぜ。
走り慣れてなかったから、スッゲー疲れてるの……暗い部屋でアニメをイッキ見して、カップラーメン汁まで飲む生活習慣、見直さなきゃ……って言ってる」
「アルフィー、そうだったのか……!」

アルフィーがアンダインの腕のなかから、こっちをキッと睨みつけてくる。

「いや、博士はそんなコト言ってないと思う……」

今度はパピルスに感謝の目線を送った。
思わず声をだして笑ってしまった。
すると、ゴミのやまを見るみたいな目で、見下された。

「でも、ここでふたりに会えてよかったぞッ!」
「たしかにそうだッ!アルフィーはこれ以上走ったらしんじゃうだろうし、そうなったら私もしんでた!」
「じつはね、山を下るのは他のみんなも一緒がいいって」
「私だッ!この私が言ったのだ!それで、みんなと合流するてはずだった」
「そしたらふたりが、オレ様たちのすぐうしろにいたッ!」

オレは、ふーんと頷いて、みんなで行くなら楽しそうだな、と言ってみる。
アルフィーもまだ落ち着かない呼吸を抱えながら、激しく頷いた。
アルフィーだって、アンダインとものすごく一緒にいたかったハズだもんな。

「よし、ふたりにも会えたし……いざ競走再開だッ!アルフィー、すこし、いや、ものすごく揺れるぞーッ!」
「えっえええっ!」

アルフィーの不安定な悲鳴を残して、すごい速さで夜の闇へと溶けていった……
パピルスはそれにまごつき、ずるいぞーっなんて、さっきのアンダインと全く同じことを言い、地団駄をふんだ。
そのまんま、アンダインを追って行くかと思ったが……

「ほらサンズ、はやく行こうッ!負けちゃう!」

オレの目の前には、パピルスの大きな手があった。
オレも一緒に、連れてってくれるつもりらしい。
……けど、走るのはごめんだな。

「いやあ、パピルス。オイラ足でまといになっちゃうぜ」
「……なにいってんのッ!もうッ」

グイッと腕をひっつかまれて、そのまんまドタドタ山を駆け上がるマラソンに巻き込まれた。
遠くから、アンダインの「遅いぞパピルス〜ッ!」という声が聞こえる……

「アンダインだって、博士抱えて走ってるんだから、オレさまもそうしなきゃフェアじゃないでしょッ」

パピルスは、いつのまに、オレよりずーっとでかくなった背中でそう、語った。
表情は見えないハズなのに、活発な笑顔が、ハッキリ見えた気がする。
そうすると、オレはすっかり、走る気にまでなってしまって、自分でチョロいな、と思う。だけど、不健康よりはいくらかマシだ。

「……あー、へへ……たしかにな……!」

走るのはいつぶりだろう。
ほんとに一瞬で息が上がっちゃって、情けない。
慣れない足取りで、土をかけあげてるうちに、スリッパがもつれ、転げそうになる。

「ウワッ、ちょっと兄ちゃん大丈夫!?」

バランスを崩したオレに、パピルスの肩もガクンと落ちて、勇ましく突き進んでゆく背中がアンバランスに歪んだ。
けど、オレは立て直したので、パピルスは振り向くことなく、しかし、より一層、オレの手を強く掴んだ。

「……ハハ、うん。新しく買えばいいさ」
「アッ、えっ!?もしかして、スリッパぬぎすてたのか!?」

振り返ってみたが、ピンク色のスリッパは、もう夕闇に紛れて、見えなかった。

土に汚れた靴下は、たしかにみるに耐えなかったが、直に踏みしめる感覚は、オレを興奮させて、顔は上気する。
ともなく、パピルスはククク……っと走りずさみながら、笑って、やがて大きく笑い始めて、オレもひさびさに、強く笑った。
さらに息が苦しくなるが、もはや、木々の香りや美味しい空気に充てられ、どうでもいい。

「ニャーッハッハッハッハ!たまにはッ!走るのも、いーでしょッ!?」
「ハハ……っ!ま、たまには、そーだな……!」

遠くに、手をふるアンダインと、その隣で丸いアルフィーの姿が見えてきた。
まだ霞んでるけど、オレが汗の塊になるより前には、きっとたどりつく。

「パピルスッ!遅かったなッ!これで私と1対1だッ!」
「エッ、さっきオレさまがサンズを見つけたのカウントされてたの!?」
「あたりまえだろッ!」

アンダインが走ってきたパピルスの頭を、握りこぶしで出迎えて、またグリグリした。
パピルスは、そっと繋いだ手を離してしまって、オレはガックリその場に伏せた。
いやあ、さすがにキツイ!
ドッときた息切れと、汗に参る。マジでいくらふいても汗が止まらない。

「えあっ、さ、サンズも走って……きたの?……って、靴下が泥だらけじゃない!スリッパは……!?」

アルフィーがオレの周囲をクルクル歩き回って、様子を確認している。
返事をしようと思ったが、ゼーゼー息がでるだけで、そんな余裕ない。動悸もしてきた……
まるっきり、さっきのアルフィーと同じ状況だ。

「なにっ!?あのサンズが走っただと!一体なにがあったんだ……ッ!?
きょうは槍でもふるのか!」
「……フフ、大切な弟が暗ーい山の中走ってっちゃったもんだから。怖くなって追いかけたらしいわ!
オイラみかけによらずビビりだから……ホラー映画だってひとりで見られないんだぜ、って言ってる!」

アルフィーがしてやったりと言わんばかりの顔でこっちを見てくる。
なんか、反論してやりたかったが、相変わらず口からでるのはヤバい息だけ……
わざとらしく目をそらしたら、アルフィーが笑いだした。

「あらあら、ウフフフ。そうなの?サンズィ」

死ぬほどタイミング悪いところに、トリィがいた。
目をそらした先に、しゃがみこんでオレを覗き込んでたもんだから、ビックリしたが、もはや驚いて吹っ飛ぶ体力もなく、息が一瞬止まっただけに留まった……
いや、運が良かった。

「アッ、と、と。トリエル……!」

アルフィーもビックリしたみたいで、盛大にどもってる。
なんか、トリィに返事もできないし、息も全然整わないしで、パピルスとアンダインの方へ目をやった。楽しげに会話している……
……マジで、息ってフツーこんなに整わないモンなの?

「そ、そ、そ、そそそうなの!!サンズはね、ものすごーく、ビビりで、ついでに心配性!
特にジャンプスケア……ビックリ系にはスゴイ弱いんだよ〜!フラッシュとかね!
有名だけど『ウォーリーを探さないで』って、動画をみせたときは、ホント傑作だったんだから〜!マジであれ2mは飛び上がってたもん!」

スッゲー不名誉な話しをされてたので、オレはヨロヨロ立ち上がって、アルフィーの肩に手を置いた。
無論、言葉は出なかったが……無論だけにな。
まあ、言葉は出なかったので、軽く払いの蹴られ、ついでにデコピンされて、オレはあえなく、また地面に膝をついた。

「あら、そうなの!意外だわ……!
そうだ。こんど、みんなで一緒にホラー映画でも見ない?」
「エッ、いいね……!あっでも、ふ、フリスクは……平気?」

フリスクのことが気にかけられるなら、オレのことも気にかけてくれよ……
って、フリスクもいるのか。
トリィの方を見てみたら、たしかにすぐ隣。手を繋いで、オレのほうを哀れそうに眺めてた。
アルフィーの質問にはまだ答えてない。

「ふ、ふ、ふり、フリスク……?」
「ハハ、はァ……ッ、フリスクは、オイランことを……はあ……しんぱいしてくれてるんだよ……やさしいヤツだ」

さっきよりマシになってきたオレは、また立ち上がって、フリスクのほうに近寄ろうとしたが、アイツ、オレが頭を撫でてやろうとした瞬間すり抜けやがって、アルフィーに今やってるホラー映画を調べてくれとかなんとか、言ってやがる。

「ふふ、じゃあ決定ね。その、ビックリ系ホラー、見ましょう!
もちろんサンズィ、あなたもね」

フリスクはこっちをみて、メタトンの番組でそうしたみたいに、不敵に笑った。
アルフィーは興奮した様子で、賛成っ賛成っ!と言っている。

オレはまたもや、地面に倒れふした。
ぐったり下に向けた顔の先に、土がうごうごして、顔を出したのは、ミミズ……
ああ、友よ、アンタだけは味方だよな。
……汗がミミズの上に滴り落ちて、ヒット!
ぐにゃっと体全体を曲げて、すぐさま地面に潜っていってしまった。

12/9/2024, 3:31:02 PM